幼き頃の邂逅の記憶は、今は奥底にそう、としまっている。
父は遠い遠い刻に亡くなり、代を譲った後、母は残った力の全てを父が眠る地の護りと変えて消えていった。
隠れるように築かれし墓の傍らに添うて咲く、決して枯れぬ紅桔梗が、その印。
その花が開くのを見届けて以降、地上に降りてはいないのだけれど──。
「……はあ、それは。
……らしい、というか、なんというか」
眠っていた間に交わされたやり取りを聞かされ、苦笑が滲む。
目覚めた後、父母の間にあったなんとも評し難い空気の理由はそれだったのか、と。
時隔てて知った真相に、らしいなあ、とかそんな事を考えていた所に向けられた言葉に、ひとつ、瞬いた。
「……俺が……父に?」
確かに、母からはよくそういわれていた。直接、似ている、と言われてはいないけれど。
「先代からは、『似なくていい所に限ってそっくり』とは、よく、言われていましたが」
軽い口調で言いながら、父を評する言葉に目を細める。
幼き記憶にある父と漆黒の将の様子からは、強き信が感じられた。その人がそう言うのであれば、自身の気質が父譲りである、というのは、違うことのない事実なのだろう。
遠い刻、心の内に沈めた記憶。
父と共に過ごした時間は、決して長いとは言えない、けれど。
こうして話を聞く事で、改めて、彼の人との繋がりというものを感じ取れるような気がしていた。
「……願いは、自ら閉ざさぬ限りは叶うもの、ですよ。
だから、俺も願いと祈りは捨てていない」
願いと祈り。
それが何を意味するかは、伝わるか。
南方守護者の一族が代々引き継ぐものであり、そして、幼き頃に朱雀神との『約束』故に、叶わせると決めているもの。
傷つきし朱の翼が再び蒼穹を翔ける日を、必ず迎えんとする想い。
「……『いつか』の礼をしたい、と。
朱雀神も望んでおられますし、ね」
『いつか』がいつの何を示すのか、それは計り知れぬけれど。
伝えるを望むが故か、鈴の音と共に伝わった言霊を、伝えて、笑う。
歳を重ね、相応の精悍さは身についてはいるものの。
朱雀の寵受けし守護者の笑みは、幼き頃と、変わらない。