遠き刻の記録

……まったく。
後から後から、際限なく。

[目の前に揺らぐ妖魔の群れを見やりつつ、南方守護者は朱色の瞳を細めた。
どうなさいますか、という側近の問いかけに返すのは、軽く、肩を竦める仕種と]

どうするも、何も。
……妖魔は見即必滅。過剰なる陰気の源は、陽気持って焼き滅ぼし、廻りへ返すが我と我らが務めぞ?

……近くの村への護界は展開したか?
民に無為なる畏れ抱かすな、我らが必ず護りきる、と伝え報せろ。

先を信ずる心こそが、我らが最も強き力となる。

[言いながら、朱雀の視線は迫る妖魔の軍勢から逸れる事はない。
一歩、前へと踏み出す。同時、剣を手にした左手がす、と横に伸びた]

……跳朱红的火炎(朱の焔、舞え)

[紡がれる言葉に応じ、朱雀の周囲に火気が揺らめく]

对不有自知之明的你们所有人净化的一击(身の程を知らぬ者どもに、浄化の一撃を)

[一片の容赦もない言葉と共に、火気は朱雀の元を離れ、渦を巻く。
渦を巻いた火炎は鮮やかに舞い踊り、雨となって敵陣へと降り注いだ。
同時、朱雀は紅の衣を翻してその内へと飛び込んで行く。
朱色鮮やかな翼を開き、高空から、一撃必殺狙いの機動。
それに一歩遅れて眷族が攻勢をかける。

切り崩されていく妖魔の軍勢。
これならいけるか、と思ったその時]

…………っ!?

[不意に届いた声。それは]

……応龍……か?
後は、ってのは、一体……!

[なんだ、と疑問を口にするより先、感覚が、捉える。
反するもの、剋するもの。
陰気と、水気の──荒れ狂うよな、波動]

なんっ……!

[戸惑いは、一瞬。
どうなさいました、と呼びかける側近に、朱雀が返したのは]

この場は、任せるっ!

[ただ、それだけを告げた朱雀は朱の翼を羽ばたかせて、飛ぶ。
どこが何が、それをはきと感じてはいないが。
異様な気が集約している場所を目指せば、自ずとそこにたどり着くか。
そうして、たどり着いた先で目に入ったのは]

……応龍っ!

[叫んだ、が、何か違う。が、何が違う、と明言できなくて。
しばし思案した後──自分の知っている応龍ではない応龍がそこにいる、という結論に達した]

……なにをやったんだ、あいつは……いや、そんな詮索は、後か。

[今はこの、歪みそうな気を、正す。
そうでなければ、天上界は元より、地上界にもどんな影響を及ぼすか、知れたものではない]

多少、手荒になるが。
その、異様な陰の気……鎮めさせて、もらうっ!

[だからこそ、こう宣言するのも。
己が陽の気を込めた焔の一撃を叩き込むのも、ためらう素振りは微塵もなかった。**]