求婚

 歌えずにいた理由を聞いたのは、大祭の最中、優しい歌姫が、その時どんなに傷つき哀しみに沈んだかを思えば、その場に在れなかったことが悔やまれた。
 
 それでも、鳳凰と応龍が、傷ついた姫を気遣ってくれていた事を聞けば、その悔いも少しは和らぎ、二方への感謝の念を強くする。
 それならば、と、思い立ったのは…恐らく演舞の前、常のごとく挨拶にと顔を見せた当代応龍の薄く色を変えた姿を目にしていたせい。

「いずれのこと、と、思っていたが…縁ある者が揃う時は多くはない。ならば、いっそこの機会に、皆の前で披露しようかと思うのだが」

 突然の言葉の意味をローズマリーに問われれば、これはしまった、と男は笑う。

「これでは、順序が逆だな」

 笑み含んだまま、そっと孔雀の歌姫の手を取って、まっすぐにその瞳を見つめ、男は望みを口にする。

「ローズマリー、貴女を正式に私の妻として迎えたい。この大祭の間に婚礼の儀を行い、祭りの終わったその後には、私と共に、北の地へ帰ってはくれないか?」

 言葉の意味が伝わり、返答あるにはどれ程の時がかかったか、けれど想い合う事は確かな相愛の相手、否やの返る筈も無く。

「急な事を言うようで、驚いたろう。だが、どうせなら、貴女を慈しみ助けてくれた方々、縁結んだ四神四瑞、全てに祝ってもらいたいのだ。それに…大祭の終わった後、貴女を置いて帰ることなど、私には、最早我慢出来そうに無いのでね」

 肩を抱き寄せ、囁くのは、いいわけめいた睦言ひとつ。頬染めた愛しい姫に漆黒の男は満足そうに目を細めた。