「……どうしてそこで、貴方が謝られますの、七星の君?」
天地越えて契り交わしたいとしき術師の最期を看取り、その穏やかなる眠りを願った後。
向けられた謝罪に、舞姫は困ったような笑みを浮かべて、こう言った。
「誰かに謝られるような手合いのことではありませんわ。
……本人もそう、言っていたでしょう?
全ては、在るがまま、望むままに生きたが故。
この結果は、その証。
だから……悔いる必要も、何も……ないのです」
いずれ、時の流れによって居場所違うは必然。だからこそ、思うがままに、と。
それが、ふたりの間で交わした約束。
だから、その事で必要以上に嘆く心算も、他者を責める心算も、舞姫にはなかった。
陽の気の均衡を司る朱雀神の代行者として、自身が嘆きに飲まれるはできぬというのもあったが、何より。
「それに……わたしには、この子がおりますから。
立ち止まっている猶予など、ありませんわ」
言いながら、抱えた子の赤い髪をそう、と撫でる。
泣き疲れて眠ってしまった、焔の子。
この子が、突然の喪失の衝撃に折れてしまわぬよに、そして、それを越えていけるよに、導かねばならない。
朱雀神の寵を受ける子だからこそ、心に深く刻まねばならぬことを、教えねばならないから。
だから今は、ひとりの女として嘆きはせず。
母親として、朱雀の代行者として、為すべき事をするのだと。
そう言って笑って──それから幾度、昼夜は繰り返し星は巡ったか。
蒼穹より下りし真白の風花。
焔一輪の護りし地に降りたそれが生み出したものに、枯れる事なき花が、揺れる。
『……まったく』
『どうしてこう、背負い込まれるような考えをなさるのかしら、ねぇ?』
さやさや、さわさわ。
風が花を揺らす音に、何かが混じって、流れてゆく。
『ああ、けれど』
『届けてくれて、ありがとう』
『……どうか……彼のやさしき姫君に、安らぎを』
『そして、貴方自身も』
『穏やかなる時を……玄武の君』
孔雀の歌姫の痛みの所以、その仔細までは知らずとも。
抱える陰りは、気づかぬはずもなく。
それが、彼の姫君を気遣っていた理由のひとつ。
それ以外にも、手をかけられる娘がほしかった、という偽らざる思いもまた、あったけれど。
響く天上の歌声、それに聴き入るが如く、一時風が止む。
天にも近い、冬知らずの地。
そこから飛び立った朱の翼が、再び舞い降りるのは──まだ、先の事。