その一報が訪れたのは庭にて気を均していた時のこと。
傍には共に在るを誓った歌姫の姿。
南方守護者の使者からの報と聞き、腰掛けていた椅子から蒼龍は立ち上がった。
「やはり、大人しくはしていなかったようだね。
押し寄せる妖魔の討伐へ向かえ。
南方の聖域は、彼らに任せておいて大事無い。
我々は被害を広げぬよう食い止めるのだ」
朱雀ととても良く似た気質の当代南方守護者。朱雀が在る領域には彼が即座に駆けつけているであろうことは容易に想像が出来た。彼のこと、きっと守り通すだろうと信を預け、蒼龍は眷属に数多集うであろう他の妖魔の討伐を命じる。
「…私も出なければならない。
ローレル、君はここに留まっておいで。
花や木が君を護ってくれる」
蒼龍が育てた花木はその陽気を帯びて結界の役割を果たす。屋敷に妖魔を近付かせはしないが、有事の際は庭が避難場所となることを告げ、歌姫を緩く抱き締めてから蒼龍はその傍を離れた。
かけられる声に微笑を返し、背を向けると屋敷の外へ。その頃には面立ちも戦場へ向かうものへと変わっていた。
* * * * * * * * * *
「私の薙刀を持て」
眷属に命じ、その手に蒼き柄の薙刀を握る。ふわりと舞うは一陣の風。
「起風(チィフォン)───神風(シェンフォン)」
木気と陽気を数多込めた神風を作り成し、薙刀へと纏わせ大きく振るう。神風の向かう先は──南。
「──朱雀、急いて仕損じてはならぬよ。
彼の子を信じよ。
万全となり───戻って来い」
神風に乗せる想い。朱雀への信、守護者への信。駆ける風は妖魔を寄せ付けず南方、朱雀の領域へと。途中、水気が風へと乗るのを感じれば、ふ、と口端が緩んだ。
「…承った」
彼の声が聞こえたわけではない。けれど、託されたと言うのは感じ取れたから。諾の声を発し、薙刀を右手で持ち構え直した。
「行くぞ。
北、南と連携を取り各地に現れる妖魔を殲滅する」
西は白虎に任せておけば問題無い。信を置く故に手を出さず、皆が動けるよに補佐へとつく。
「発雷(ファーレイ)───」
取り巻く風は身を宙へと運び、握る薙刀には鮮烈なる光が宿る。
「閃烈網(シャンリィエワン)!!」
頭上で回転させた薙刀から奔るひかり。空を覆わんばかりの光は刹那、妖魔達の気を引くことも出来ようか。隙を作れたなら、重畳。
「これ以上進むは………罷り通らぬ」
眷属は各地へと散らせ。玄武とは別の、妖魔の群集の前に立ちはだかり薙刀を突きつける。朱雀の復活は皆が願っていたもの。邪魔をさせるつもりはさらさら無かった。