朱翼の沈むまどろみは、浅きと深きを揺れ彷徨う。
時に浅きに意識が寄れば、その兆しは領域に火気が増す、という形で表に出ていた。
もっとも、その微弱な変化を捉えられるのは眷属、或いは四神や四瑞に限られるのだが。
(…………蒼の、か?)
眠り浅く意識動いたその時に、届いた風。
その感触と、乗せられた声は馴染み深いもの。
(……無理に来るなと。
穢れがうつったらどうする気だ)
呆れたような思念は声にはならず、そうでなくとも声が届けられるだけの状況では、声の主に届く事はないが。
そう、言わずにおれぬのは、性分故か。
(……言伝?)
それでも、届けられる風に宿る木気は心地よく、それは癒しの力となって翼に染み入る。
絶望によりて編まれた呪は、容易く薄れはせぬものの、朱翼を包む痺れが微かに和らぐような心地がした。
その感触に、羽毛に包まれた身を微かに身動ぎ火気を舞わせつつ、預かった、という言伝を聞き。
(…………まったく)
間を置いて落ちた思念は、呆れの響きを帯びたもの。
笑む気配と、最後の言葉。それら伝えた風が完全に消えると、再度、朱の羽毛が揺れた。
(……そらを、か)
(……ああ、見ているといい)
(……傷が癒えたら、真っ先に挨拶に行ってやる)
(……すまぬな…………結果として、負担をかける事になった……)
(……お前にも、蒼のにも、白のにも。四瑞の皆にも)
紡がれるのは、面と向かっては口にせぬ想い。
他を顧みぬと評される南方守護者だが、それが建前である、と知る者はごく限られる。
他に何者もない空間で紡がれるのは、そんな建前に隠されたもの。
苛烈なる破の炎の陰に潜む、他への慈しみ──護りの焔。
(……そら……へ)
(皆の、ところへ)
(かえる、ため……にも)
呪詛が与える絶望に、屈する事はできぬ、と。
まどろみの内に繰り返される攻防へ挑む意思を、改めて強めつつ。
朱の翼は、ただ、
再び、彼らと見えるその時を。