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   ACT−3:護り手たちの集う場所 02

「んじゃ、二番手オレね。行って来るわ」
 ミィが温泉から戻ってくると、ソードがこう言って立ち上がった。入れ替わ
るように腰を下ろしたミィは、長い髪に残った滴を拭う。一人で戻ってたミィ
に、シュラはやや訝るように眉を寄せる。
「……リュンはどうした?」
「え? あの……ここは精霊さんがいっぱいだからって、まだ温泉に……」
 ミィの答えに、シュラはそうか、と呟いて沈黙する。妙に重い沈黙が立ち込
め、そして。
「……一つ、言っておくが」
 シュラの静かな言葉が、それを破った。
「レイファの事で、罪悪感を持つな。あの獣どもは、お前を狙っていたのでは
なかったのだからな」
 静かな言葉に、ミィははっと顔を上げてシュラを見た。シュラは言葉と同じ
く、静かにミィを見つめている。ミィはしばしその澄んだ蒼氷色を見つめてい
たが、やがて、低く問いを投げかけた。
「あなたは……何を知っているんですか?」
「……それに答える必然はないな。答えは、お前自身が持っているはずだ」
 問いにシュラは一瞬眉をひそめるものの、すぐにさらりと受け流す。この答
えに、ミィは唇を噛んで目を伏せた。
「もう一つ……言っておきたい事がある」
 そんなミィの様子にシュラは一つ息を吐き、やや穏やかな口調になってこん
な事を言う。それに、ミィは硬質の声でなんですか、と短く応じた。
「私に気を許せ、などとは言わん。だが……ソードには、心を開いてやれ。ヤ
ツは、本気でお前を護ろうとしている。それも、純粋な想いのみで、な」
 静かな言葉にミィはえ? と言いつつ顔を上げてシュラを見る。しかし、シ
ュラはそれきり何も語らず、静かに目を閉じてしまった。
「護ろうとしている……? でも……」
(でも、どうして……?)
 どこにも投げられない問いを、心の奥にそっと落として。ミィはまた、ペン
ダントをぎゅっと握り締めた。

「ふ〜……生き返るねえ」
 そんなやり取りなど知る由もないソードは、呑気な呟きをもらしつつ湯に浸
かっていた。
「……それにしても……なんだかなぁ」
 しかし、そう気楽でもないらしく、紫から藍へと変わり始めた空を見つめる
瞳は、やや陰りを帯びている。
「遺跡出てからのミィ……どーしちまったのかな? オレが剣を持つ度に、怯
えちまって……」
 とにかく、この一点がわからない。原因として考えられるのは一つ、遺跡で
のビーストとの戦いなのだが、ミィはそれについて話そうとはしてくれない。
「あの時のオレ、どーなってたんだ? ほんの五、六分だけど……何してたか、
思い出せないんだよな……」
 戦っていた、という感覚はある。しかし、明確な記憶がないのだ。その事と
ミィの様子が苛立ちをかき立て、ソードは深くため息をつき、
「……でこぼこぉ……」
 唐突に聞こえた声にぎょっとしてそちらを振り返った。一体いつの間に近づ
いてきたのか、そこにはきょとん、とした表情のリュンの姿がある。それと確
かめると、ソードはほっとしたように息を吐いた。
「何だ、リュンか……脅かすなよ」
「ソード、せなか、でこぼこ」
 くしゃ、と緑の髪を撫でてやると、リュンはソードを見上げつつこんな事を
言ってきた。
「へ? ああ……これね」
 その言葉に一瞬戸惑うものの、ソードはすぐにリュンが何を言っているかに
気がついた。
 ソードの背には、左の肩口から右の脇腹近くにかけて走る歪な亀裂がある。
明らかに、刃物でつけられた傷痕だ。例によって覚えはないのだが、かなり古
い物なのは察しがついていた。大体、四、五年前のものだろう。
「いたくないの?」
「ん? ああ、痛みはない。やった時は、死ぬほど痛かったと思うけどな」
 左の肩を軽く押さえつつ冗談めかしてこう言うと、リュンは大きな瞳をくり
っとさせて瞬いた。
「ソード、しんじゃったの?」
 ストレートな問いに、ソードは苦笑しつつリュンの頭をぽんぽん、と軽く叩
く。
「そういう意味じゃないよ。でも……そうだな、ある意味では、一回死んでる
な……今のオレになる前のオレは、死んじまったようなモンだし」
「ふににゃあ?」
「ああ……こっちの事。あんまり悩むなよ、リュン」
 独り言のような呟きにきょとん、としつつ首を傾げるリュンの姿にソードは
また苦笑し、それから、話題を変えるべくこんな問いを投げかけた。
「それよりお前、ずっとここに入ってんのか?」
「うん! 大地の声と、精霊さんと、たくさんあるから♪」
「精霊? ……精霊、ねえ……」
 一転、にこにこしながら問いに答えるリュンの様子に、ソードは訝るように
周囲をぐるりと見回した。
「お前、精霊見えるの?」
「見えるよお。ソードの周り、いつも精霊さんでいっぱい〜♪」
「へ? オレの周り?」
 何気ない問いに対するリュンの答えに、ソードはぎょっとする。しかし、改
めて見回してみても、目に映るのは日が暮れて蒼く染まってきた森の様子だけ、
だ。
「……ホントかよ?」
「見ようとすればぁ、見えるよお」
「見ようと、すれば?」
 訝るような問いにリュンはあっけらかん、と答え、その言葉に興味を引かれ
たソードは一度目を閉じ、深呼吸をしてから目を開いた。
「……え?」
 開いた途端、目に入ったものにソードは思わず呆けた声を上げる。背中に透
き通る翅を持った小さな少年が、目の前に浮かんでいるのだ。
「……気づいてくれたっ! 気づいてくれたよぉっ!!」
 目の前に居るものを認識した瞬間、少年がはしゃいだ声を上げた。直後に、
様々な姿をしたものたちがわっと周囲に集まってくる。髭面の小人あり、透き
通った身体の女性あり、炎をまとったトカゲありと、その姿は様々だ。
「お前ら……精霊?」
 ぽかん、としつつ問うと、
「今更、何言ってるのさ〜!」
「ずっと一緒に居たのに、全然気づいてくれないんだから〜っ!!」
「そ〜だよ〜、ちょっと前まではヒューリーしか寄せてくれなくてさ〜!!」
「ずるいですよ〜、私たちの王とも、盟約は交わされていたのに〜」
 精霊たちは口々にこう訴えてきた。その一部にふとした疑問を感じたソード
は、矢継ぎ早の言葉の合間にどうにかそれを差し挟む。
「盟約……って?」
 短い疑問を投げかけると、精霊たちはぴたり、と沈黙した。
「そうだ、ボクらの王が言ってた……剣の誓約で、時を失した……って」
 翅の少年が呟き、それに精霊たちがざわめく。
「あ、でも、盟約は魂に基いてるから、大丈夫だって! だから、ボクらが見
えるんだよ!」
 慌てたように付け加えられた言葉に、精霊たちは騒ぐのを止めてソードに注
目した。注目されたソードはかりかりと頭を掻き、それから一つ息を吐く。
「……上手く、言えないんだけどさ。こうやって、お前らといると、何か落ち
着くよ。
 オレの記憶の中には、お前らの事、全然ないんだけどさ。それ以外のとこが
覚えてるみたいな……そんな感じがあるんだ」
「それが、魂の盟約じゃ!」
「我らの王との間に交わされし盟約……汝が、我らの盟友である証なり」
 ソードの言葉に、小人と火トカゲがそれぞれこんな事を言う。
「ソードはぁ、精霊さんの、一番のともだちさんなんだよぉ」
 更にリュンがこう付け加え、精霊たちは一斉にそれを肯定する素振りを見せ
た。ソードはそっか、と言いつつリュンの頭を撫でてやる。
「んじゃま、改めてよろしくな」
 それから、こう言って精霊たちに笑いかける。この言葉に、精霊たちはまた、
わっと歓声を上げた。

「……随分と、長湯だったな」
 戻って来るなりシュラから投げかけられた言葉に、ソードはあはは、と笑っ
て返していた。シュラはやれやれ、と言う感じで一つ息を吐き、それから、ソ
ードが一人である事に気づいたのか、怪訝そうに眉を寄せた。
「……一人か?」
「ああ。リュンなら精霊と遊んでる。あいつ、のぼせるって事、ないのかね?」
「……恐らく、な」
 軽い口調で投げた疑問にシュラはため息混じりにこう返し、刀を手にして立
ち上がった。
「三番手、行って来るのか?」
「うむ。良い月夜になりそうだ……戻らんかも知れんが、気にはするな」
 入れ替わるように腰を下ろしつつ問うと、シュラはこう言って木立の向こう
に姿を消した。恐らく、剣の鍛練をしてから湯に浸かるつもりなのだろう。
「……あんだけの腕があって、それでも毎日欠かさず稽古するんだから、マメ
だよなあ……てか、それが習慣なのか?」
 シュラが消えた辺りを見やりつつ、ふとこんな呟きをもらす。恐らくはそれ
で間違いないだろう……などと思いつつ、ソードは焚き火の方へと向き直り。
「……ん?」
 じっと、こちらを見つめるミィに気づいた。
(あ……なんか、やな予感)
 つい最近見たのと同じ瞳に、ソードは内心ひやりとする物を感じていた。ミ
ィは以前、竜人の遺跡で問いを投げてきた時と同じ、不安と期待を混在させた
瞳でじっとこちらを見つめていた。
「……あの……ソードさん」
 囁くような呼びかけが、沈黙を破る。ソードは平静を装いつつ、なに? と
それに返した。
「この前、竜人の遺跡で私が聞いた事……覚えて、ますか?」
(……やっぱり)
 投げかけられた問いに、とっさに浮かんだのはこの言葉だった。湯上りの汗
とは明らかに違う、冷たい汗が滲むのが感じられた。
「……ソードさん?」
「あ、ああ……覚え、てるよ」
 沈黙を訝るように呼びかけてくるミィに、ソードは引きつった声でこう返す。
「じゃあ……答えてください。どうして……私を、護ってくれるのか」
「……」
「ソードさん?」
「そ……それって……そんなに、深刻になるようなコト……なのかなぁ?」
 視線を逸らしつつ問うと、ミィはむっとしたように眉を寄せた。
「あなたには、どうでもいい事なんですか!?」
「て、そうは言ってないって!」
「なら、ちゃんと答えてください!」
「……だから、なんでそんなにムキになる訳?」
 普段の控えめな様子からは想像もつかない剣幕に半ば気圧されつつ問うと、
ミィはだって、と言葉を詰まらせた。
「だって……おかしいです。私、何にもお返しできないのに……」
「別に、見返りは要求しないけど。俺が勝手にやってる訳だし」
 かすれた言葉に思っている通りで答えると、ミィは軽く、唇を噛む。
「勝手に……それじゃ、尚更です! どうしてなんですか!?」
「ミィ……ひょっとして、オレに護られるのって……迷惑、だったり?」
 立て続けの問いに感じた疑問を投げかけると、ミィははっと目を見張った。
「そんな事……そんな事、ありませんっ!」
 一拍間を置いて、ミィは叫ぶようにそれを否定する。その声に眠りを妨げら
れた鳥や小動物のざわめきが、しばし周囲を騒然とさせた。
「……ごめん、変なこと聞いた。とにかくさ、ミィ、少しでいいから落ち着い
て」
 周囲が静かになるのを見計らい、ソードは静かにこう言った。ミィはやや伏
目がちになってこくん、と頷く。ミィが落ち着いたと見て取ると、ソードはゆ
っくりと話し始めた。
「……正直言うとさ。自分でも、何でか、はわからないんだよね」
「わからない?」
 静かな言葉に、さすがにと言うかミィは怪訝そうな表情を覗かせた。ソード
はそれに、一つ頷く。
「ああ。ただ、あの時……天狼が、キミを連れて行こうとした時にさ、直感的
に思ったんだ。
 君を護りたい……護らなきゃ、いけないって」
「……」
「もしかしたら、忘れてるだけで何か理由あるのかも知れないけどね。とにか
く、今はこうとしか言えない……納得は、できないだろうけど」
 苦笑しつつ話を結ぶ。ミィはやや俯いて何事か考えていたようだが、やがて、
小さな声で問いを投げかけてきた。
「そんな……そんな、曖昧な理由で。それだけで、あんな大怪我をしても、平
気なんですか?」
「そりゃ、怪我は平気じゃないよ、痛いし。でも、ミィ、治してくれたろ?」
 その問いに、にっこり笑ってこう答えると、ミィはえ? と言いつつ顔を上
げた。その瞳に宿る怪訝そうな光に、ソードはがじがじと頭を掻く。
「あーと……だからさ。理屈じゃ、ないんだ。
 あの時、オレはミィを護らなきゃって思った。そしてそれが正しいって……
自分にとって、自然な選択だと思ったんだよ。
 だから、オレはそれを選んで。今、こうしてキミとここにいるんだ」
「……ソードさん」
「オレは、自分が何者だったのかもわからない。だから、オレの全部を信じて
くれとは、ちょっと言えない。
 でも、キミを護りたいって気持ちには、嘘はないつもりだよ。だから、それ
は信じてほしいんだ」
「……」
 静かな言葉に、ミィはまた目を伏せる。その表情からは、強い困惑が読み取
れた。ソードはまたがじがじ、と頭を掻き、それから一つ息を吐く。
「……それと、さ。オレ……信じてるよ、キミが悪いコじゃないって事をね」
 いつか言おうと思っていた言葉をそっと告げると、ミィははっとしたように
顔を上げた。
「信じてる……私を?」
「うん」
「……どうして……」
「キミの、どうして、への答えはみんな同じだよ。理屈じゃなくて、それが正
しいって言う、直感」
「おかしいとは、思わないんですか、私の事……?」
「あはは……ホラ、オレ、それ言い出すとキリがないしさ」
 微かに震える問いかけにソードは乾いた笑いでこう答え、それから、表情を
引き締める。
「とにかく、オレはキミの事は何も知らないし、無理に知ろうとも思わない。
だから、オレにとってのキミは、普通の女の子なんだよね。
 で、ほら、やっぱ女の子を護るのは、男の役目だと思ったりもする訳で……」
 ここでソードは言葉を切り、穏やかな笑みをミィに向けた。
「だから、オレはキミを護る。それが、正しい事だと思うから」
「……ソードさん」
「あ、どうして、はもうナシね? これ以上は、答えようがないからさ……っ
て……ミィ?」
 乾いた声で本音を漏らすと、ミィは急に俯いてしまった。突然の事に戸惑い
名を呼ぶが、ミィは答えない。よく見ると、焚き火の灯りに照らされた肩は、
微かに震えていた。
「……ミィ?」
 ふと嫌な予感が過ぎってそっと声をかけた矢先、それは的中した。俯いた顔
から煌めく滴が零れ落ちるのが目に入り、ソードはぎょっとする。
「ミ、ミィ!? え……なんで、泣いて?」
 思いも寄らない事態に動転しつつ呼びかけるが、ミィは俯いたままで何も言
わない。こみ上げてくる感情を無理に押さえ込んでいるような──そんな感じ
がした。その様子にソードはどうしたものかと思い悩み、それから、最も直接
的な行動に出た。
 俯くミィを引き寄せて、そっと抱き締める。瞬間、細い身体の震えが感じら
れた。突然の事にミィはさすがに戸惑う様子を見せたものの、結局はそのまま、
ソードに身を預けて泣きじゃくる。それに連れて、それまで少女を捕らえてい
た緊張が緩んでいくように思えた。
(ようやく、安心してくれたみたいだな……)
 柔らかな髪を撫でてやりつつ、ソードはふと、こんな事を考えていた。いき
なり泣かれたのは正直驚きだったが、ミィが自分の感情を見せてくれた事に、
ソードは強い安堵を感じていた。
(……護らなきゃいけない、何があっても)
 そんな、真摯な決意を固める横顔を、焚き火からひょっこりと顔を覗かせた
火トカゲがしげしげと眺めていた。火トカゲはしばし二人の様子を見つめた後、
炎の中へとふっと消える。
 そんな事にはついぞ気づかず、ミィは泣き続けていた。これまで押さえ込ん
できた分を、一度に解放しようとでもしているかのように。
 それでも、やがて感情の昂りは鎮まったらしく、しばらくするとまだ微かに
濡れた瞳を上げてソードを見た。顔を上げたミィに、ソードはにこ、と笑いつ
つ問いを投げる。
「落ち着いた?」
「……はい」
 短く答えつつ、ミィはこくん、と頷く。頬が微かに紅いのは、炎の照り返し
のためだけではないらしい。
「こめんなさい、私……取り乱してしまって」
「まぁ、それはそれでオレのせいとも言うし……いいけど、ね」
 苦笑しながらの言葉に、ミィは呟くようにそうじゃなくて、と言って僅かに
目を伏せる。
「そうじゃなくて……って?」
「私……初めてだったから……びっくりして……」
「初めてって、何が?」
 ミィの言わんとする所が今ひとつ掴めず、ソードはきょとん、としたまま問
いを重ねた。この問いにミィはしばし言葉を捜すような素振りを見せ、
「普通の……女の子として、見てもらった事……今まで、なくて。だから……
嬉しくて……」
 それから、消え入りそうな声でこんな答えを返してきた。
「……ミィ」
「おかしいですよね、こんな事で泣くなんて……」
 思いも寄らぬ返事にやや戸惑いつつ名を呼ぶと、ミィは俯いたまま、早口に
こう呟いた。ソードは夜空を見上げて一つ息を吐き、それから、いつもの笑顔
をミィに向ける。
「そんな事、ないんじゃないかな?」
 ごく軽い口調の言葉に、ミィはえ? と言いつつ顔を上げた。
「別に、おかしい事でもなんでもないって。嬉しい事を嬉しいって言うのは、
ごく当たり前の事だろ? まあ、あんまり全開にしてるのもなんだけど、でも、
素直に気持ちを見せるのは悪い事じゃないよ。
 少なくとも、オレはそう思うな」
 顔を上げたミィに、ソードは笑顔のままでこう言いきった。ミィはしばらく
戸惑っていたようだが、やがて、はい、と言ってこくん、と頷く。張り詰めて
いたものが解けたその表情には、微かな笑みが見て取れた。
「やった、笑った♪」
 その笑みについこんな呟きをもらすと、ミィはえ? と首を傾げる。ソード
は早口になんでもない、と言いきってそれを誤魔化し、ミィはまた、不思議そ
うに大きな瞳を瞬かせる。それでも、特にその事を追求するつもりはないらし
く、しばしの沈黙を経て、ミィは小さな声であの、と呼びかけてきた。
「え? なに?」
「……もう少し……このままでいても、いいです、か?」
 消え入りそうな問いかけに、今度はソードがえ? と言ってきょとん、と瞬
いた。それでも少女の願いを退ける理由は思いつかず、ソードは微かに笑みつ
つ、いいよ、と頷く。ミィはありがとうございます、と呟きつつ、目を閉じて
ソードの胸に頬を寄せた。
 穏やかな沈黙が、ふわり、その場に舞い降りる。


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