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   ACT−3:護り手たちの集う場所 01

 古代種・竜人。
 最も無垢なる存在と称される彼らは、生まれた時には男女の別はなく、また、
自己の存在についても明確な認識を持たないと言う。それらは全て、以降の生
活の中で学んだ事から自分に相応しいものを選び取っていくのだ。
 人工的に創造されたとはいえ、リュンも竜人である。故に、日々の経験から
自己を構築していく事に変わりはない。
 別れ際に、セインはこう言っていた……のだが。
「リュン! こら待て!!」
「みゅ〜♪」
「『みゅ〜♪』じゃないっての!」
「……先行き不安だな、これは」
 河原を所狭しと走り回るソードとリュンの姿に、シュラはやれやれとため息
をついた。その横ではミィが呆然と走り回る二人を見詰めている。当の二人は、
そんな事には構いもせずにばたばたばたばたと走り回っていた。
「こ……こんにゃろ〜……」
 さすがに息が上がってきたのか、ソードは足を止めて汗を拭いつつリュンを
睨む。
「……いい加減にしろ、たかが魚一匹で大人気ない」
 そんなソードに、シュラが呆れきった声で突っ込みを入れた。
「たかがってなんだよ! オレにとっては、大問題だっ!!」
「……」
 焼き魚の争奪が大問題というのもどうかと思うが、という突っ込みを、シュ
ラは心の奥で入れるに止めた。
「あの、ソードさん……お魚、まだありますから……」
「そういう問題でもないの! この際、過不足は問題じゃあないっ!」
 ミィの言葉にも大真面目にこう答え、ソードは追いかけっこを再開する。焼
き魚を口にくわえたリュンは、みゅ〜♪ と楽しげな声を上げつつ逃げ回った。
「……やれやれ、まったく」
 その様子に処置なし、と言わんばかりのため息をつくと、シュラは刀を手に
してゆっくりと立ち上がった。リュンが目の前を過ぎる、その瞬間を狙って刀
を抜く。ヒュンッ!と風が鳴り、追いかけっこの原因となった焼き魚が宙に舞
った。シュラは無言で刀を収め、懐から素早く紙の束を取り出して魚を受け止
める。一拍間を置いて、焼き魚は見事に三枚に下ろされた。
「これで、文句あるまい?」
「いやその……大マジで言われても」
「みゅうう……」
 大真面目な表情で言われてしまい、ソードとリュンは困惑しつつも魚を分け
合って腰を下ろした。シュラも、まったく、と嘆息しつつ腰を下ろす。
 竜人の遺跡を発ってから数日、リュンを交えて四人となった一行は聖地クレ
ディアを目指して森を南に進んでいた。襲撃を生き延びたセインたち研究員は、
あのまま遺跡に残っている。
「大丈夫ですよ。妙な話ですけど、リュンが離れれば、ここは何もないのと同
じですから」
 危険を示唆するソードに、セインは拍子抜けするくらいあっさりとこう言っ
た。
「でもさ……研究資料とかは?」
「竜人に関する物は殆どありません。そういうのは全部、主任のここでした」
 言いつつ、セインはこんこん、と自分の頭を小突く。
「じゃ、ここに残って……どうする訳?」
「そうですねぇ……今、ここの最高責任者って、副主任のぼくですからね……
まあ、ここは一つ、みんなそれぞれの研究テーマに戻りますよ。取りあえずぼ
くは、巨大野菜でも研究します」
 あっけらかん、と言うセインに、ソードはこちらもあっけらかん、とした口
調で頑張れよ、と告げ、セインははい、と頷いた。
 そんな妙にからっとした別れから数日、ソードたちはリュンの天然と言うの
も憚られる無邪気さに手を焼きつつ、クレディアへと向かっていた。もっとも、
ソードに関して言えば手を焼いている、というよりは楽しんでいる、と言った
方がいいかも知れない。先の焼き魚騒動のように、同じレベルでケンカをする
のが日常となっているのだ。
「確固たる自己がない者同士、気が合うのかも知れんな……」
 そんな二人の様子にシュラが下した評価は、あながち間違ってはいないよう
だった。
「みゅう〜ん♪」
「みゅう〜ん、じゃあないだろ〜。ったく、少しは自分で歩け」
 肩車状態で自分に乗って楽をするリュンにソードは低い声でこう言うが、
「やぁだよぉ」
 リュンはこう返してソードの頭をぐしぐしとかき回す。
「くぉらっ! 人の頭で遊ぶなっ!!」
「ソード、ぼさぼさ〜♪」
「お前のせいだろっ! っとにぃ……」
「あの、ソードさん……リュン、私が連れて行きますか?」
 愚痴るソードを見かねたようにミィがこう言うが、ソードはいいよ、と笑っ
て見せた。
「こいつ、チビのくせに重いからね。ミィが抱えてくのはちょっとキツイよ」
「でも……」
「リュンはぁ、チビじゃないよぉ」
「だったら、自分で歩けよな〜」
「やぁ〜だよぉ〜♪ ぼさぼさ〜♪」
「止ぁめろっつーに! 落とすぞ、このっ!!」
 一見すると怒ったように言ってはいるがソードの目は穏やかで、リュンとの
じゃれあいを楽しんでいると一目でわかる。身体を傾けてバランスを崩すフリ
をするソードに、きゃー、と言いつつしがみついて更に髪の毛をごちゃごちゃ
にしているリュンの方は、何をかいわんや、だ。そんな二人に、ミィは少しだ
け寂しそうな視線を向ける。
 竜人の遺跡を出てからと言うもの、ソードはリュンが独占している状態だっ
た。勿論、している方にもされている方にもそんなつもりはないのだが。いず
れにしろ、ソードがミィを構う時間は以前よりも少なくなっていた。単に、リ
ュンが引っ掻き回しているだけ、とも言うが。
「……ん?」
 不意に、ソードが訝るような声を上げて足を止めた。合わせるようにシュラ
も厳しい面持ちになって足を止める。
「ふにゃ?」
「どうか、したんですか?」
「……お客さん。ミィ、リュン頼むよ」
 突然の事に戸惑うミィにこう言うと、ソードはリュンを肩から下ろして剣に
手をかけた。
「……あ」
 その瞬間、ミィの表情を不安が過ぎる。この所、いつもそうだ。ソードが剣
を手にする度、ミィは不安を覗かせる。
「大丈夫だよ、ミィ。心配いらないって」
 それに気づいたソードは、引き締めた表情を僅かに緩めてこんな言葉を投げ
かけた。それから、呼吸を整えつつ前に向き直る。ミィは座り込んできょとん、
としているリュンを抱え上げて戦う二人の邪魔にならないように後ろへ下がる
が、スミレ色の瞳は陰りを帯びていた。
「……ミィ?」
 そんなミィに、リュンがきょとん、としつつ呼びかける。くりっとした金色
の瞳は、不思議そうにミィを見つめていた。
「どしたの?」
「……なんでもないわ……大丈夫」
 ふわっとした緑の髪を撫でつつ、ミィはリュンに、というよりは自分自身に
言い聞かせるように、小さくこう呟いた。
「……せいっ!」
 その一方で、ソードとシュラは戦いを始めていた。相手は獣の頭を持つ獣人。
魔導帝国が複数の生物を融合させて作り出した生体兵器・ビーストだ。
 自我や自意識と呼べる物を全て消され、ただ戦う事のみを存在意義とする者
たち。ある意味、非常に純粋な存在と言えるだろう。勿論、ソードたちにとっ
ては単なる迷惑でしかないのだが。
「ラスト、もらいっ!」
 世に恐れられる生体兵器たちではあるが、この二人を相手取るにはいささか
格が低い。ソードの宣言の直後に最後の一体が消し飛び、戦いは終わった。
「やれやれ……しっかし、参るよなぁ。何でこんなに、ノラがいるんだ?」
 剣の刃を軽く拭って鞘に収めつつ、ソードがため息をつく。
「戦場に放たれたものがそのまま殺戮に酔いしれ、暴走しているのだろうな」
 それに、刀を鞘に収めたシュラがこう答えた。
「悪酔いしすぎだよ……めーわくったらない」
「……仕方あるまい、魔皇帝自身が野望と言う下らんものに悪酔いしているの
だからな」
「そりゃ、ごもっとも」
 吐き捨てるように言うシュラの言葉に、ソードは苦笑しつつ肩をすくめる。
基本的に辛辣な物言いの多いシュラだが、ことドーランドの魔皇帝に対しては
特に手厳しい。竜人の遺跡を出てからその厳しさが増したようにも思えるが、
ソードはそれを気にしないようにしていた。下手に気にして突っ込んだ所で、
自分が痛いだけなのは目に見えているからだ。
「さぁてと、それじゃ、行こか?」
 気持ちを切り替えてミィに声をかける。ミィはじっとソードを見つめ、それ
から安堵したように一つ息を吐いてからはい、と頷いた。
「……みゅっ」
 戦いの間ずっと落ち着かない様子できょろきょろとしていたリュンが大声を
上げ、全員の注目を集めたのはその時だった。
「どうしたの、リュン?」
 突然の事にミィが不思議そうに問うが、リュンは答えずに周囲をきょろきょ
ろと見回している。大きな耳がぴょこぴょこと動き、何かを捉えようとしてい
るらしい。やがて、リュンはぴょん、とミィの腕から抜け出した。
「リュン!?」
「……こっち〜!」
「こっちって、何が?」
「えと、大地のね、声がね、たくさんきこえる〜♪」
 ソードの投げかけた疑問に楽しそうにこう言うと、リュンはぴょん、と跳ね
ながら横道に入っていく。三人は顔を見合わせ、それから誰からともなくその
後を追った。とにかく、一人で放り出すわけにはいかないからだ。
「どこ、行こうってんだ、あいつ?」
「さて……行ってみなければ、わからんな」
 ソードがもらした呟きに、シュラが至極もっともな答えを返してくる。それ
に、ソードは確かにな、と呟いて緑色の後姿を追いかけた。
 茂みの合間を縫うような小道をしばらく進むと、開けた空間に抜ける。森の
中の小さな広場だ。広場の一画にはそこそこの広さを持つ泉が湧き出し、リュ
ンはその辺に座ってにこにことしていた。
「リュン、何してんだ……って、あれ?」
 声をかけつつその傍らに膝を突いたソードは、ふと、すぐ側の泉から違和感
のようなものを感じた。水面から、湯気のようなものが立ち昇っているのだ。
手を差し入れてみると、じんわりと温かい。どうやら、温めの温泉のようだ。
「ほう、温泉という訳か。しかし、何故こんな所に……」
 やや遅れてやって来たシュラが、同じように泉に手を差し入れ、訝るように
呟く。ソードはしばし温泉に手を漬け、それから、あるものに気がついた。
「……火の力」
 小さな声でぽつりと呟くと、シュラは泉に向けていた訝しげな視線をそのま
まソードへと向けた。ただし、そこに宿る光はやや厳しさを帯びているが。
「何だと?」
「下の方に、もの凄く、強い火の力がある……それが、泉の水をあっためてん
だよ」
「精霊さんなの、精霊さん♪」
 ソードの説明にリュンが楽しげに付け加え、その言葉にミィが息を飲んだ。
「リュン、あなた精霊の存在を感じてるの?」
「みゅん♪」
 ミィの問いに、リュンはいとも呆気なく頷いて見せる。
「……よもやとは思うが、ソード……」
 それに続けてシュラがソードを見やりつつ問う。この問いかけに、ソードは
ああ、と一つ頷いた。
「おぼろげにだけど……自然の力、みたいなもの、感じてる。はっきりとは、
言えないけど」
 それぞれの返事にミィは困惑を浮かべ、シュラは厳しい面持ちで二人を見て
いたが、やがてため息と共に立ち上がった。
「いずれにしろ、今日の夜営地はここが良かろう。風呂に入れる機会など、こ
の先そうはあるまい」
「ま、そりゃそーだな」
 シュラの言葉にソードは苦笑しながら立ち上がり、ミィもそうですね、と相
槌を打つ。言葉にこそしないものの、この発見を誰よりも喜んでいるのが彼女
なのはほぼ間違いないだろう。
 だから、という訳でもないが、温泉と茂みを一つ挟んだ所にある開けた空間
に夜営地を確保するとまず、ミィが湯を使う事になった。もっとも、一人だけ
では心配なのでリュンも一緒なのだが。
「大丈夫だよ、よっぽどの事がない限りそっちには行かないから」
 少しだけ心配そうにしているミィに、ソードは軽くこう言っていた。それに、
安堵と不安とを同時に感じつつミィは温泉へと向かう。すぐに飛び込みたがる
リュンに服を脱がせ、もう一度周囲の様子を確かめてから帯を解き、ドレスを
滑り落とす。残照の中に浮かび上がる身体は細く、簡単に手折れそうにも見え
た。
 下着も脱いで泉に滑り込むと、じんわりとした温かさが包み込んでくる。そ
の温もりが、ずっと張り詰めていた気持ちを少しだけ解してくれた。離れた所
ではリュンが楽しげに湯を弾いており、その無邪気な様子も心を安らげてくれ
た。
「リュン、いらっしゃい。髪洗ってあげるから」
「は〜い♪」
 呼びかけに、リュンは相変わらず楽しげな様子でこちらにやって来る。小さ
な身体を膝の上に乗せ、柔らかな髪を丁寧に濯いでやると、緑の髪は雨上がり
の若葉を思わせる、鮮やかな色を織り成した。
「はい、おしまい」
「ありがと〜……ふに?」
 嬉しそうに言いつつ振り返るなり、リュンは突然怪訝そうな声を上げた。
「どうしたの? ……きゃっ!」
 問いかけた直後にリュンが胸に触れてきたため、ミィは思わず悲鳴じみた声
を上げていた。リュンはそれに全く構わず、金色の瞳をきょとん、とさせてミ
ィの胸元を見つめている。
「ミィ、ふわふわぁ」
「え?」
 一瞬、何を言われたのかわからなかったのだが。
「ふわふわで、やぁらか。でもレイファ、もっとふわふわぁ」
 続くこの一言で、その言わんとする所は概ね理解できた。ミィは頬を朱に染
めつつ、胸元をぎゅっと押さえる。
「そ、そんな事、大声で言わないの! 聞こえちゃうでしょ、もう!」
 ふわふわ、というのが胸の膨らみの事を示している事、そして、自分よりも
レイファの方がふわふわ──つまり、その膨らみが豊かであった、という事を
大声で言われるのは、色々な意味で嬉しくない。
 まして、茂みの向こうにいるのは若い男二人。聞かれて嬉しい事でもない。
そんな思いから早口で言い放つと、リュンはふにぃ? と言いつつ不思議そう
に首を傾げた。

 その一方で。
「……なかなか、興味深いお話しをしているよーで……」
「聞かぬ事にするのが、得策と思うがな」
 当の男二人は呆れたような困ったような、何とも言い難い表情でこんな言葉
を交わしていた。
「まぁ、ミィが細いのは知ってたけど……しかし、何と比較してんだか、あい
つ」
「仕方あるまい、あれは他に、女性を知らん」
 ため息まじりのソードの呟きに、シュラは苦笑しつつこんな事を言う。
 確かに、その通りではあるのだが。竜人の遺跡で研究をしていた者たちは、
レイファを除いて全員が男性だった。つまりリュンは誕生してからこれまでの
間、レイファとミィ以外の女性に接した事がない。と、なると、必然的に比較
対象が限られてしまうのだろうが、しかし。
「にしても、酷いと思うけどなあ……あの美人さんと比較するのって……気に
してたんだとしたら、傷つくんじゃね?」
「……まあ、そうかも知れんな」
「とはいえ、オレはそんなに気にしなくてもいいと思うんだけどね、大きさと
かは」
 さらりと言った一言にシュラは怪訝そうな面持ちで何故、と問う。
「どっちかっていうと、胸は控えめなのが好み」
 それにソードはこれまたさらり、とこう返し……静寂を経て。
 ……すぱあんっ!
 小気味良い音が響く。
「……論点が違うぞ、それは」
 例によって音速の一撃を伴った突っ込みに、ソードは痛みを堪えつつ、あは
は、と笑って誤魔化した。

 そんな漫才など露知らず。
「……ふう」
 気を取り直して自分の髪を濯ぎ、旅の汚れを洗い落とすと、ミィは一つ息を
吐いた。リュンは潜って、浮かんで、というのを飽きもせずに繰り返している。
茜色から紫へと変わっていく空を見上げつつ、ミィはいつも服の上から握り締
めている物──首からかけたペンダントをそっとすくい上げて見つめた。
 何かの紋章を象ったらしい銀細工の中央に、大粒の翡翠をはめ込んだものだ。
わずかな光を弾いて煌めくそれを、ミィはどことなく陰った瞳で見つめる。
(このまま何もなければ……あと一月もすれば聖地に着く。聖地に着けば……
皆さんとも、お別れ)
 それは仕方のない事だと思っている。自分の目的地はクレディアだが、ソー
ドやシュラ、リュンにとってはそうではない。彼らにとってクレディアは仮の
目的地であり、そこにたどり着けば別れるのは必然なのだ。
(でも……)
 それと理解している反面、心の一部分はそれを拒んでいた。このままソード
たちと旅を続けたい──そんな思いが、いつの間にか芽生えていた。
「……わがままよね」
 声に出して、呟く。
 二人ともそんな素振りは見せないが、自分がお荷物なのは明らかだ。それと
わかるだけに、これ以上の迷惑はかけられない、という思いもある。そしてそ
の思いは、このままでいたい、という願いと同等に、強い。
(……甘えてはダメ。私は、聖地に行って務めを果たすの。それが、私がここ
にいる意味なんだから)
 ペンダントを握り締めつつ、心の奥でこう呟いていると、
「……ミィ」
 リュンが名を呼んできた。
 え、と言いつつ声の方を見ると、いつの間にやってきたのかリュンはミィの
すぐ側におり、金の瞳でじっとミィを見つめていた。
「……なに?」
「ミィ、やだよ」
 一体何を言われたのか、またもすぐにはわからなかった。
「やだよって……何が?」
 唐突な言葉に戸惑いつつ、そっと問いかけると、
「リュン、やだよ。ミィとばいばい、やだよ」
 リュンは真剣な様子でこう返してきた。
「リュ、リュン? どうしたの、突然そんな……」
「ミィも、やでしょ、ソードとばいばいするの。ソードも、やだよ」
 声を上擦らせた呼びかけを最後まで言わせず、リュンは更に言い募る。先ほ
ど考えていた事を見透かしでもしたような言葉に、ミィははっと息を飲んだ。
「……リュン……」
 何をどう言えばいいのか、わからなかった。ミィは小さくため息をつくと、
リュンの小さな身体をぎゅっと抱き締める。
「……ミィ?」
「大丈夫……今は、一緒だから。今は……誰とも、離れたくない」
 リュンに、というよりは自分自身に言い聞かせるように、かすれた声で呟く。
この呟きに、リュンはふにぃ、とやや不安げな声を上げた。


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