翡翠の追憶 13

 その後、ぼくは父に引き取られた。
 ……正直、父がぼくを迎えに来た時はかなり驚いた。
 旅人だと聞いていたのに、あんまりにもあっさりと現れたものだから、拍子
抜けしたとも言うけど。
 父は隣国の森の奥で、一人で暮らしていたのだという。
 離れていたのは、それぞれに捨てられないものがあったからだと、父は苦笑
していた。
 つまり、母は生まれた土地を。
 父は、自分の研究を。
 どうしても捨てられないから……愛し合いながらも、離れて暮らしていたの
だと言う。

「辛い思いばかりさせてしまった……すまない」

 ぼくがエルフとしての特性を強く持って生まれたと聞いた時に、すぐに引き
取れば良かったのに。
 赤ん坊を育てる自信がなくて、躊躇してしまったのだと。
 ……今まで自分だけで異質だと思っていた、銀色の髪と真紅の瞳を持つその
人は、本当に済まなそうに母にこう言った。

「いいんです、私が自分で選んだのですから」

 それに対し、母は微笑ってこう言った。
 ものすごく、綺麗な笑顔だった。

 ……強い、想い。
 そこには、確かなそれが感じられた。

 ……そして、ぼくは父の研究所へ向かい。
 殺人料理しか作れない男二人の環境から脱するべく、思考錯誤を始めたり。
 父と一緒に歴史の研究をしたり。
 静かな森の中で、ゆったりとした生活を送る事になった。

 ……そして、ある日。

「ラキス」
 朝食と片付けを終えて一息ついていると、父が静かに呼びかけてきた。
「なんですか?」
「……世界を、見てみようとは思わないか?」
「……え?」

 一瞬、言われた意味がわからなかった。

「世界を見ておいで。このまま森に閉じこもってしまうのは、気楽だが、もっ
たいないよ」

 静かな、それでいて妙に楽しげな笑顔で投げかけられた言葉。
 それは……もしかしたら、ぼくがずっと、待っていたものだったのかも知れ
ない……。

 ……そして……。


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