翡翠の追憶 10

「……ラキ!」
 少し遅れて、母も異変に気づいたらしいけど……。

 止められない。
 いや……止める気に、なれない。
 違う……止める必然が、どこにもないんだ。

「……人の力を……使うだけ使って……都合が悪くなれば、切り捨てる。
 自分は知らない、悪くない?
 よくも、そんな事が……」

 低い、声。
 ……随分低くなるんだなぁ、なんて、妙に冷静に考えている自分が、そこに
いた。

 ざわざわ。
 ざわわわわわ……。

 声が、聞こえる。
 それは……風の、声。
 ぼくの感情に応えようとしている……怒りを、映そうとしている、風たちの
……。

「ラキィ!! ダメ……ダメだよ、止めて!!」

 ジェイドが叫ぶのが、聞こえたけれど。
 ぼくには、それを止める事はできなかった。
 ……ずっと押さえこんでいた、感情。
 それが、一度に解放されてしまったような感じで。
 自分で自分が……制御、できなくなっていた。

 ……ヴヴンっ!!

 鋭い音を立てて、風が、刃となった。

「……ラキ!」
「きゃっ!!」

 母と姉の声が、後ろから微かに聞こえ。

「な、何だっ!?」
「風が……うわあっ!!」

 絶叫が、前から幾つも聞こえた。
 合わせて、嫌な臭いが周囲に漂う。

 そして……。

「ラキィ、ダメっ……こんな事で、壊れちゃ嫌だ!!」

 今にも泣きそうなジェイドの声が響き。
 目の前に、真紅が、舞った。


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