翡翠の追憶 6

 それから三日後、どうにか熱は下がり。
 ぼくは、祭祀の儀式のための支度にとりかかっていた。
 この間の口論からジェイドは姿を見せなくなっていて、それが妙に不安だっ
たけど。
 ジェイドの名前に、姉が過敏に反応する事もあって、口には出せなかった。

「……ラキ」

 支度が済むのと同時に、母の声が聞こえた。振り返った先には――酷く悲し
げな顔がある。
「……大丈夫だよ」
 静かな瞳に、ぼくは穏やかな笑顔でこう言った。
「声は、出さないようにね?」
「わかってる……心配しないで」
 昔の甲高い声はどこに行ったのやら、今の声は、やや高めだけどどう聞いて
も男性のそれ。
 声を聞かれれば、もうごまかす事はできなくなっている。
「……もし……苦しいようなら……」
「……大丈夫だってば」
 言葉の続きを聞きたくなくて、ぼくは早口にこう言ってそれを遮った。

 逃げ出したいのが、本音だから。
 解放されたいと、願っているから。

 だけど……ぼくだけがラクになるわけにはいかないから。

「……心配、しないで。無理はしないから」
 精一杯の笑顔で、こう告げる。

 悲しまないでほしいから。
 苦しまないでほしいから。
 そのためになら……ぼくは犠牲になっても構わないから。

 だから……ぼくの事は気にしないでいいから。

 いつの間にか芽生えていた、自虐的な欺瞞。
 それが自己満足に過ぎないと気づかないまま、ぼくはゆっくりと外に出る。

「ラキ……」
 寂しげな呼びかけには、気づかない振りをして。


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