翡翠の追憶 5

「……ラキィ」
 不意に、ジェイドが真面目な面持ちになってこちらを見た。
「もう、止めちゃえよ」
 ……え?
「勝手なリクツごねる連中のために、自分殺すの、止めちゃえよ」
 ……ジェイド?
「オレ……オレ、やだよ。今のお前……見てらんないよ」
 ……そんな事、言われても……。
「逃げちゃえよ。ラキィには、ラキィの生き方があるはずだろ?」
 それは……でも……。

「ちょっと、勝手な事、言わないでよっ!!」

 甲高い声が響いたのは、その時だった。
 いつの間にやってきたのか、部屋の入り口に姉のライアが立って、呆然とぼ
くらを見つめていた。

「勝手って……勝手言ってるのは、他の連中だろ?」
 姉に向けて、ジェイドは思いっきり不機嫌な表情でこう問いかける。
「なに言ってるのよ! あんたね、ラキをそそのかさないでよ! ラキがいな
かったら、あたしたち、ここで生きていけないんだからっ!」
 それに、姉は叫ぶように言いつつ、ぼくを抱え込んだ。
「ラキィの力に寄生してるような連中にすがんなくたって、何とかなるだろー
が!」
「ここ出て、どこに行けばいいのよ!」
「どこだって、行けるだろ! 生きていこうと思えば、どこでだって……」
「あんたと一緒にしないでよっ、宿無し風来坊!」
「……二人とも……落ち着いて……」
 感情的な言葉の応酬に、どうにか口を挟む。

 ……こんな事で、言い争わないでほしいから。
 ぼくにとっては、二人とも大切な存在で。
 その二人が言い争うのを見るのは嫌で。

 いや……それ以前に。
 人と人が争うのは……見たくないから……。

「ぼくは……いいから……だから……」
「良くないよ!」
「ラキがいいんだから、いいのよっ!」
「お前っ……ラキィを殺すつもりかよっ!」
 祭祀の儀式は、自分の寿命を縮めるものだと、そうジェイドは叫んだ。
 自分の生命を自然に捧げて、それで守りの力を得ているのだと。
 ……だから、長は村の娘たちに巫女の役目を与えないのだと。

 ……寿命を……縮める……?
 生命を、自然に……?

 それは思いもよらない言葉……だったけど。

 それでもいいかも知れない。

 そんな、諦めにも似た思いに囚われつつ、ぼくは意識を失っていた。


← BACK 目次へ NEXT →