翡翠の追憶 3

 そもそも、十代の頃のぼくの日常と言うのは、もう、悪夢としか言えないも
のだった。
 ぼくの母は、代々、村の祭祀を司る巫女を出してきた一族の出で。
 その力は、双子の姉・ライアが引き継いでいる――はずだった。
 にも関わらず、姉にはそういった力は皆無に等しく、対するぼくは生まれつ
き、風や雨の声を聞く能力に長けていた。
 エルフだったという父親の血を濃く受け継ぎ、その特徴を多く引き継いだ結
果だろうと、村の古老は言っていた。
 それ自体は、別に構わない。
 でも、姉に力がなくてぼくにある、という事態は、村の長を困らせたらしか
った。
 村の祭祀は巫女、つまり女性が勤めるもの。
 男性の覡が勤めた前例など、これまでにないのだという。
「慣例を破るわけにはいかない」
 そう主張する長に押しきられた形の古老の案で、ぼくは、女として、巫女の
勤めをさせられる事になった。
 元々、母はあまり人付き合いをする方ではなく、女手一つでぼくらを育てて
くれた。
 ……旅人を愛してその子を身篭った事と、生まれた子供の片方だけがエルフ
だったという、特異な状況のせいで、敬遠されていたのだと知ったのは、だい
ぶ後になってからだけど……。
 だから、ぼくら姉弟の性別を知っている……というか、気にかけている人は
ほとんどいなくて。
 女装したぼくを男と疑う者など一人として存在しないという、冷静に考える
ととんでもない日々は、当たり前に続いていた。

 言うまでもなく、それは、拷問のような日々。
 強い力を持つ者として、必要以上に恐れ、敬われ。
 挙げ句、女として振る舞わなきゃならない。
 正直なとこ、悪夢でしかなかった。

 ……そして、夢は、いずれは覚めるもので……。

 悪夢は、やがてその言葉におあつらえ向きの形で、破られる事になるのだけ
れど。


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