翡翠の追憶 2

 頭上に影が差し、あ、と思った時は、大抵いつも手遅れで。
「……ラキィ、はっけーん♪」
 陽気な声と共に降下してきたそれが、後ろから抱きついてくる。
「わっ!!」
 びっくりして声を上げると、飛びついて来たモノ――陽気な風の精霊は、い
つも意地悪い笑みを浮かべた。
「『わっ!!』ってなんだよ、『わっ!!』ってさ? だーめだなぁ、ラキィ、今
はオンナノコなんだから、『きゃっ』って言わないとさ〜」
「うるさいなっ、もう!」
 好きで女の格好なんかしてる訳じゃない。わかっているはずなのに、彼はい
つもこう言って人をからかう。それが腹立たしくて、ぼくはいつも怒ったよう
に言いつつ、その手を振り払っていた。
「怒るなってば♪ で、今日のオツトメは終わったの?」
「……でなきゃ、家に帰れるわけないだろ?」
 手を振り払われつつ、それでも彼は笑うのを止めない。明らかに、こちらの
反応を楽しんでいるんだ。

 ……それとわかっていても、感情的に反応してしまうぼくが悪いのかも知れ
ないけれど……。

「ラキィ、怒ってる〜♪ 怒ると可愛いし〜♪」

 ……ほら、やっぱり彼の反応はいつも余裕で。
 それをどうしても覆せない自分が、どうにも情けないのは否めない。
 だけど。
 そんな彼と交わす言葉、共に過ごす時間。
 それは、ぼくにとってはかけがえのないものだった。

 ……母と姉、それから村の長と古老を除くと唯一、本来のぼくを知っている
風の精霊・ジェイド。
 彼がいなければ、ぼくはもっと鬱屈した日々を送っていたのは、間違いなか
ったから。


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