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   星を"視る"(下)

 ごほっ。ごほっ。
 緑は昆平の咳で起こされた。
「どうしたの、昆平。」
「お母さん・・・、ごほっ、喉が痛い・・・。」
「風邪かしら。」
 昆平の額を触った緑は、とたんに顔色を変えた。
「・・・昆平、お医者さん行くわよ。」

「かなり悪いですなぁ・・・。」
 医者は困った表情で言った。
「かなりひどい熱病です。今夜か、明日の夜あたりが山でしょう。」
 緑は横ですやすや眠っている昆平を見た。
「こんなときに限って、うちの昴っていないのよね・・。」


「は、は、はぁっくしょん!!!」
「先輩・・・。昨日からやぁたらくしゃみ多いですね〜。」
「ああ。風邪ひいたかな。」
「大丈夫ですよ。先輩は○○ですから。」
「今お前、バカって言おうとしなかったか?」
「・・・気のせいですよ・・・。」
「今夜お前のおごりね?」
「はい・・・・。」
 沈んでいた(?)新太郎が言った。
「そういえば、先輩、先輩って子どもさんの占いはしないんですか?」
「あっそうだな。昨日のじいさんにも言われたし。いっちょしてみるか。」
 二人は酒場を出た。

「えっと・・・・、じゃあ占いやるけど、お前横で見てたって面白くないぞ。」
「え〜面白くないんですかぁ?」
「あのね。俺は・・・、前世は占わないの。」
「先輩。それって失礼ですよ。」
「・・・・。」
 昴は占いをはじめた。といっても星を見るだけだが。
「確かに横で見ててもつまらん占いですね。」
「うるさい奴だな、お前は。・・・あっ。」
「なんか分かりました?」
「子どもが・・・重病だ。俺、九州に帰っていいか?」
「え・・でも先に殿に聞かないと・・・、」
「明日は病気でお屋敷いけないって、そう伝えといてくれ。」
 昴は駆け出した。
「せんぱ〜〜い、、、、」


 昴は馬に乗りながら考えていた。
 昨日の老人の事を。
 昨日のあの老人は、俺の子どもが重病になるというのを、分かっていたのか?
 あと気になるのは、あの名前・・・
 "南極老人"どこかで聞いたことがあるような・・・
「昴−−−、待ってろよ〜〜〜〜〜〜!!!」
 東海道を、京の街中を、中国山地を、馬は走りぬけた。


「父さん・・・、」
 昆平は蚊のなくような声で言った。
「父さん、帰ってこないの・・・?」
「父さんは・・、来年にしか帰ってこないのよ。だから早く病気治さないと。」
「うん・・・。」
「ただいま!!!」
 扉が吹っ飛ぶほどの勢いで昴が入ってきた。
「父さん!!」
「あなた?!」
「昆平、大丈夫か?」
「うん、お父さんが来たから大丈夫だよ。」
「そうか。」
 昴の顔がほころんだ。
「ちょっと、あなた・・・、」
 碧が昴を外に連れ出した。
「あなた、よく聞いてね。」
「・・・?」
「昆平、元気そうに見えるけど、実は凄く重い病気なのよ。お医者さんの話だ
と、意識があるのが不思議なくらいって・・・」
「え・・・・、そんなに悪いのか?」
「ええ・・・。」
 二人はまた家に入ってきた。
「お父さん、お母さん・・・、」
「どうしたんだ、昆平?」
「喉が・・・苦しい・・・」
「あっ・・・、忘れてた。」
 昴は袂から小さな小さな袋を取り出した。老人からもらったあの袋だ。
「この薬を飲めば・・・、病なんてすぐに治るぞ。」
 「万病の薬」は、大豆くらいの大きさの、周りが栗のようにいがいがしてい
る白い粒だった。
「それ、どこで拾ったの?」
「失礼な。助けたおじいさんにもらったんだよ。はい、昆平たべてみて。」
 昆平は粒を口に入れた。
「甘いね、これ。」
 久しぶりに、昆平が笑った。
「あれ、お父さん、もう喉痛くないよ。」
「え?あ、熱も下がってる・・・。」
「ホントにこれって薬だったんだな・・・。」
「お父さん、信じてなかったの?」
「ところで・・・、何であなたここにいるの?」

 後日、昆平は御菓子屋さんになった。目玉商品は、そう、「こんぺいとう」。


 今夜も、あの星が出ている。
 地平線の近くに出ている、その星の名は、「南極老人星」・・・


 『へもぐろ便』にて999ヒットを踏ませていただいた際のキリリク作品。 お題は『星』でお願いしました。  ……それにしても、こうしてみるとゾロ目ばっか踏んでる……(汗)。  竜骨座α星カノープスという渋いセレクトに感服。  忘れていた星マニアの血が一瞬騒ぎました(笑)。
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