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   星を"視る"(上)


 今夜も、あの星が出ている。


「お母さん、」
 昆平が言った。
「お父さんもさ、この星空見てんのかな。」
「そうだろうね。お父さん星が好きだから。」


「は、は、はぁくしょん!!!」
 ここは参勤交代で来た人たちの溜まり場(酒場)である。
「昴さん、大丈夫ですかぁ?」
 後輩の新太郎が彼に笑いながら聞いた。
「あ、うん大丈夫だ。」
「誰か先輩の事を噂してんじゃないですかぁ〜?」
「昆平かな。」
「ああ、九州に置いていかれた子どもさんですか。」
「そうだ。」
 昴は、ふらりと外にでた。
「昆平も、碧も、この星見てんのかな。」
「そういえば先輩、このごろ占いはされないのですか?」
「そうだな。一つお前を占ってみるか。」
「やったぁ。じゃあ、恋愛運を・・・」
「やぁっぱやめた。」
「先輩〜〜〜〜〜っ」

 酒場の帰り(数時間後)、わあわあと騒ぐ声が聞こえた。
「けんか、ですかね・・・。」
 ちょっと遠くの方で、老人が若い男何人かに絡まれている。
「先輩・・・、どうします?」
「やるっきゃないだろ。・・・二手に分かれるぞ。」
 二人は駆け出した。
「おい。」
 昴が若い男達に声をかけた。3人いる。
「なんだおっさん。」
「じいさんをいじめていいと思ってるのか。」
「じゃああんた達お侍さんは俺達庶民に何をしたっていいと思ってんのか。」
「俺は、お前らの事を聞いてるんだ。」
「俺も、お前の事を聞いてるんだ。」
 三人はげらげら笑い出した。
 一番太っていて強そうな奴が言った。
「お侍さんよぉ、このじーさん、金もってそうだろ?」
 昴はおじいさんを見た。
 小柄でやせているが、どこかに凛とした気品のあるじいさんである。
「だろ?」
「・・・ああ。金がほしいのか。」
「そうだ。」
「じゃあ、俺が金やるから。これでいいだろ?」
「・・・だから、お侍さんってのは好きなんだ。」
 三人はまたげらげら笑い出した。
「じゃあ行くぜ。またな。お侍さんよぉ。」
 三人は、そう言ってどこかへ歩き出した。
「おじいさん、大丈夫ですか。」
「ああ、ありがとう。お前さんのおかげで助かったよ。」
「いえいえ。俺は金払っただけですから。」
 昴はぽりぽりと頭を掻いた。
「そうだ。」
 おじいさんは袂から小さな小さな袋を取り出した。
「お前さんに、お礼をさせてほしい。この中にな、万病の薬が入っておる。困
ったときに使ってな。」
「あ、ありがとうございます。」
「先輩〜」
「あっ、新太郎。お前どこ行ってたんだ。」
「それより、あの三人は?」
「お前が回り道してる間におっぱらった。」
「・・・あれま。」
「頼りにならない奴・・・。」
「先輩?」
 老人が、タイミングを見計らっていった。
「あの・・、お前さんがた?」
「あっすみません。忘れてました。」
「わしはこれで・・・。」
 老人が向こうに歩き出した。
「ちょっと待って下さい。」
 昴が引き止める。
「あの―、」
「どうしたんじゃ?」
「おじいさん、貴方のお名前は・・・?」
「南極老人じゃ。」
「・・・そう・・ですか・・・。」
「あっお前さん、占星術は毎日やった方がいいぞ。」
 おじいさんは去っていった。
「あれ〜、俺にはしてくれなかったくせに、おじいさん占ってあげたんですか?」
「いや・・・、俺はそんなこと・・・一言も言ってないぞ・・・。」
 もう夜も白み始めている。(朝帰りかよ・・・)

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