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   ACT−8:『時空の剣』、発動

「………………」
 ガレス・ハイルバーグは苛立ちの中にあった。書斎のソファに座り、手にし
たワイングラスを染める鮮やかな色彩を、苛立たしげに睨み付けている。
 空間転移でその場に現れたイレーヌはその苛立った様子に呆れたように鼻を
鳴らし、それから、わざとらしい口調で、どうなさいました? と問いかけた。
「……イレーヌか。何の用だ?」
 ガレスはちら、とそちらを一瞥し、またワイングラスを睨み付けながら低く
こう問いかけた。
「儀式の準備が万端に整ったので、ご報告に上がりましたの……随分と、苛立
っていらっしゃいますのね?」
 慇懃な口調の問いにガレスは答えない。そんなガレスに、イレーヌは意地の
悪い笑みを浮かべつつ、一言、言った。
「昔聞いた、つまらぬ予言を気にしていらっしゃるのですか?」
 この言葉にガレスははっとしたように顔を上げてイレーヌを見た。イレーヌ
は楽しげな面持ちで、更に言葉を接ぐ。
「確か……そうそう、旅の占い師の予言だったそうですわねぇ、あなたの生命
は、あなたの血を継ぐ男によって断たれる……と言っていたのは? 違いまし
たかしら?」
「……下らん。奇をてらっただけの、戯れ言に過ぎん」
「あら、でもその『戯れ言』を、真に受けられたのでしょう? せっかくお生
まれになったご長男を、自ら手にかけられたのですから」
 吐き捨てるように言って目をそらすガレスに、イレーヌは楽しげに追い打ち
をかけた。
「そうまでして……奥方の心を殺し、残ったお嬢様には絶縁を宣言され……そ
こまでしたのに、まさか、行きずりの女が身籠もっていたなんて! ほぉんと、
できのいい冗談ですこと……」
 楽しそうに笑うイレーヌを遮るように、かしゃん、という澄んだ音が響いた。
ガレスが手にしたワイングラスを握り砕いたのだ。血ともワインともつかない
真紅を滴らせつつ、ガレスは鋭くイレーヌを睨み付けた。突き刺すように鋭い
眼光に、イレーヌは一瞬怯む。
「……儀式の準備は、整ったのだな。では、行くとしよう」
 そんなイレーヌに軽蔑するような視線を投げかけると、ガレスは空間転移で
その場から姿を消した。その気配が完全に消えると、イレーヌはふん、と鼻を
鳴らして長い髪をかき上げる。
「怯えているクセに……口だけは達者だこと。まあ、いいわ」
 低く、こんな事を呟いていると、
「ま、所詮は小心者だからな」
 低い男の声がこう皮肉った。空間が歪み、そこから滲み出るようにカシュナ
ーが姿を見せる。
「しかし、本当に奴に儀式をやらせるのか?」
「まあ、やらせてはみましょう。アテにはならないけどね……」
「『時空の剣』を敵に回した時点で終わってるさ……ま、いい。どうせ、奴の
力ではあいつには勝てないからな」
「あいつ……ああ、あの男ね。随分なご執心ね?」
 イレーヌの問いにカシュナーは、まぁな、と肩をすくめた。
「奴には、可愛い魔獣を殺られてるからな。お蔭であんな小物に軽く見られち
まった……このツケは払ってもらわなくちゃ、気が済まんさ」
「あんたらしいわね……さてと、そろそろ、あいつらも来る頃ね」
 軽い言葉にイレーヌは呆れたようにこう呟き、それからすっと表情を引き締
めた。
「そうか、じゃ、オレは高みの見物と洒落こませてもらうぜ。お前はどうする
んだ?」
 この問いに、イレーヌはふう、と大きく息を吐く。
「あたしは、レイ……スラッシュを警戒するわ。とにかく引っかき回してくれ
るからね、あの男は」
 一部分を不自然に言い換えたこの返事に、カシュナーは勝手にしな、と応じ
て姿を消す。イレーヌはどことなく複雑な面持ちでため息をついてから、やは
り姿を消した。

 儀式の間に空間転移したガレスは、忌ま忌ましげな様子で周囲を見回した。
儀式の間には濃密なマナが漂い、空気を重い蜜のように絡みつかせてくる。魔
導師にとっては心地よいその感触だが、今のガレスにはそれを楽しむ余裕は無
かった。
「私が、あのような下らぬ戯れ言に煩わされているなど……あり得ぬ事だ。イ
レーヌめ、知ったような事を……」
 低く呟いてイレーヌの指摘を否定しようとする、その行動が内心の困惑をま
ざまざと物語っているとも見えるが、ガレスはそれに思い至らないようだった。
魔導師は改めて儀式の間を見回し、それから、右手の不快感に気づいてそちら
に目を向けた。苛立ちに任せてワイングラスを砕いた手には細かいガラスの破
片が突き刺さり、紅い色彩を滲ませつつ微かな痛みを主張している。
 ガレスはしばしその色彩を見つめていたが、すぐにそんな傷の事など忘れた
ように、儀式の間の中央に設えられた台座の上で鈍く光る水晶玉を見た。大魔
導師アシュレイの研究所跡から持ち出したこの水晶玉こそ、二つの異なる次元
を結ぶ扉を開く鍵なのだ。
 『呼び鈴』の放出した魔力をこの水晶玉に集め、『門』に向かって放つ。そ
うする事で『門』が内に秘めた異世界との接点の力が解放され、次元を繋ぐ扉
が開く──これが、アシュレイの確立した次元交差論理だった。
 しかし、この論理はその成立をアシュレイ自身によって立証された形跡はな
い。その事実が、ガレスにこの方法論の完成にこだわらせる一つの要因だった。
伝説の大魔導師が完成に至らなかった論理を確立する──それは魔導師として
非常に意義のある事であり、そのためには、『多少』の犠牲は気にならなかっ
た。例えそれが、王国の姫であろうとも。
「さて……」
 低く呟いて気持ちを切り換えると、ガレスは愛用の杖を物品引き寄せの呪文
で呼び出して手に取った。杖の先の黒い宝珠をつい、と一撫でしてから両手で
構え、魔力を集中する。合わせるように儀式の間が薄暗くなり、水晶玉とガレ
スの杖が放つ淡い魔力光だけが空間を照らしだした。ガレスは低く、古代語の
呪文を唱えてゆく。それに伴って杖の先の宝珠の輝きが強くなって行った。
 宝珠の輝きがある程度高まると、ガレスは杖の先を空中の足場の上のファリ
アに向けた。宝珠の輝きは光の帯となって伸び、ファリアを包み込む。
「……う……」
 光に包まれたファリアは、低いうめき声を上げて微かに身動いだ。虚ろな瞳
が水晶玉に向けられる。直後にガレスの放った魔力光が飛び散り、鮮やかなば
ら色の魔力光が少女の身体を包み込んだ。
「……ほう……」
 眩いばかりに輝く魔力光に、ガレスは感嘆の声を上げる。ばら色の光は二、
三度明滅を繰り返した後、光の帯となって水晶玉に絡みついた。水晶玉はその
光を取り込み、虹色の光を放ち始める。予定通りの展開にガレスは会心の笑み
を浮かべ──直後に、異質な魔力を感じ取り、背後に向き直った。
「……来たか……」
 空間の歪みと、それを歪ませている魔力の波動に、ガレスは低く呟いて身構
える。澄んだ翡翠の魔力光が弾け、次の瞬間、ランディたちがその場に姿を見
せた。ガレスは鷹揚な様子で現れた者達を見回し──ニーナの姿に、何故か表
情を強張らせた。

 アーヴェルドの空間転移で再び訪れた儀式の間は、昨日とは大分様相が変わ
っているように見えた。全体的に薄暗く、一部分だけがやたらと明るい。その
特に明るい部分がファリアの居る足場だとランディが気づくまで、さして時間
はかからなかった。
「……ファリア!」
 呼びかけるものの返事は無く、ランディは苛立たしげに歯噛みしつつ、ガレ
スを見た。魔導師はその苛立ちを、嘲りと余裕を込めた目で受け止める。
「ガレス・ハイルバーグ! 姫を返してもらおうか!」
 弓を手にしたチェスターが一歩前に踏み出しつつこう言うと、ガレスはごく
軽い口調でそれはできんな、と応じた。
「……だろうな。元より、貴様と話し合うつもりなど、ないっ!」
 鋭い声で言いつつ、ウォルスがカードで先制攻撃を仕掛ける。立て続けに投
げつけられたカードが閃光と共に爆発してガレスの態勢を崩し、集中していた
魔力を霧散させた。その瞬間に生じた隙を突いてランディが走り、チェスター
が矢を放つ。飛来した二本の矢は、一本は残っていた魔力に焼き尽くされるも
のの、残る一本はガレスの肩を掠めた。
「……はあっ!」
 態勢を崩すガレスにランディが切りかかり、更なる真紅を散らした。銀の刃
は完全にではないもののガレスの胴を捉え、脇腹を浅く切り裂く。
「……うぐっ!」
 これはさすがに効いたらしく、ガレスはその場に膝を突き──俯いたまま、
低い笑い声を上げた。
「くくっ……なるほどな……連携による速攻は、対魔導師の必殺戦術と言える
からな……」
 言いつつ、ガレスはゆらりと立ち上がる。ただならぬ気配に、ランディたち
は反射的に魔導師との間に距離を取った。
「しかし……その程度では、私は倒れぬよ。倒れる訳には行かんのだ……」
 独り言のように呟きつつ、ガレスは杖を高く掲げる。杖の先の宝珠が妖しく
煌めき、それに呼応するように水晶玉の放つ虹色の光が輝きを増した。
「……何だ!?」
 予想外の展開に、チェスターが訝しげな声を上げる。
「……ん? この力の波動は……」
 ウォルスは水晶玉の放つ光に、特有の波動を感じ取る。
「……何だ、これ……妙な……嫌な感じ……」
 そしてランディは、言いようのない不快感をその光から感じ取っていた。同
時に、胸元に焼けつくような感触を覚える。ちょうど、アメジストのペンダン
トがある辺りだ。
(……『時空の剣』が……何だ? 何かに、反応しているの?)
 その感触に困惑していると、
「……!? 姫っ!」
「姫様っ!」
 チェスターとニーナが絶叫した。その声にはっと我に返った耳に、ディアー
ヌの絶叫が突き刺さる。
「……なっ……え!?」
 突然の事にはっとして見上げると、ディアーヌは水晶玉の放つ虹色の光に包
まれていた。どうやらその光は相当な苦痛を与えるらしく、苦悶の表情で悲鳴
を上げている。
「ふっ……くくく……はーはっはっは!」
 状況が飲み込めずに呆然としていると、ガレスが狂ったように笑いだした。
「くっ……ガレス、貴様っ!」
 その様子に、チェスターが絶叫しつつそちらに突進した。ガレスはひょい、
とその突撃をかわして杖をかざし、火炎球を放つ。チェスターはとっさのバッ
クジャンプでそれをかわしつつ、器用に矢を取り出して着地と同時に弓につが
え、立て膝の姿勢から射撃を繰り出した。ガレスはニヤニヤと笑いつつ、その
矢を魔力で焼き払う。
「……ちっ!」
 焼き払われた矢にチェスターは苛立たしげに舌打ちしつつ、不安げにディア
ーヌを振り返った。ディアーヌは、苦しげな様子で虹色の光に包まれている。
「……くっ……ディアーヌ……一体、どうすれば……」
 どうすればいいのかわからない事への苛立ちともどかしさに苛まれつつ、チ
ェスターは横っ飛びに飛んで火炎球の直撃を避けた。

「……ついに始まったわね」
 その一方で、儀式の間を眼下に見下ろす薄暗い通路では、真紅の魔女がこん
な呟きをもらしていた。その背後に黒い影がゆらめき、人影がふっと現れる。
「……随分と、強行な策を取らせたもんだな。狙いは、もしも上手く行きゃラ
ッキー、ってとこか?」
 現れた人影──スラッシュは軽い口調でこう問いかける。この問いに、イレ
ーヌはふっと疲れたような笑みを浮かべた。
「そこまで考えてはいないわよ。でも……」
「でも……?」
 訝しげな問いに、イレーヌはゆっくりとスラッシュの方に向き直りつつ、こ
う答えた。
「あの男にこの儀式を強行させれば……『時空の剣』の力を見られると思って
ね。あの剣が、あたしたちにとっては一番邪魔な存在だから」
「ま、色仕掛け懐柔に失敗したからな〜♪」
 厭味っぽい口調でスラッシュが言うと、イレーヌはやや、気色ばんだようだ
った。端正な顔に微かに生じた苛立ちを、スラッシュはにやっと笑って受け止
める。
「ま、いずれにしろ……これ以上、お前らに暴走されると、えっらい迷惑する
んだよな、こっちはさ……」
 低く呟きつつ、スラッシュは腰の小太刀に手を伸ばす。イレーヌも何処から
か華奢な造りの細剣を取り出して鞘を払った。
「なら、どうするのかしら?」
「……生命もらって、止まってもらうぜ!」
 叫びざま、スラッシュは床を蹴って一気に距離を詰め、二振りの刃を繰り出
す。イレーヌはとっさのサイドステップでその攻撃を避け、鋭い突きを繰り出
してきた。その突きを小太刀で払いのけつつ、スラッシュはにやり、と笑う。
「はっ……そうでなきゃな! お前らしくないってもんだぜ!」
 妙に楽しげに言いつつ、スラッシュは再び攻撃をしかけた。

「……あの波動……そして、王女から放たれている波動は……異界接触の波動
か……」
 攻撃の手を休めて虹色の光に包まれるディアーヌをじっと観察していたウォ
ルスが、何事か思い至ったらしく、低く呟いた。
「それってつまり、アーヴェルド様が言ってた、『門』を開くための……?」
 その呟きを聞きつけたランディが問うと、ウォルスは一つ頷いてそれを肯定
した。
「それじゃ、このままほっといたら、ファリアも、ディアーヌ様も……」
「……そういう事だが……しかし、この門に由来するのが、次元魔法の素質だ
というなら、急場を凌ぐ方法はあるかも知れん……」
「……本当なのっ!?」
 はらはらしながら王女を見つめていたニーナが問うのに、ウォルスはああ、
と頷いた。
「しかし、所詮は急場凌ぎだ。根本的な解決方は一つ……術を起動したガレス
を倒す事!」
 笑みを浮かべてこちらを見ているガレスを睨みつつ、ウォルスはきっぱりこ
う宣言する。
「ああ……そうだね。でも、どうすれば、急場が凌げるの?」
「それは、オレに任せればいい……セイラン、来い!」
 叫びに応じて紫の光が弾けた。光が消えた後には鮮やかな紫の鱗の龍──セ
イランの姿がある。その姿を見たガレスは、微かに眉をひそめた。
「む……それは……異界の龍? ほほう……次元魔法の使い手でもある、と言
う事か……」
「異世界や精霊界への接触は、占術を行う上での基本事項の一つだからな……
行け、セイラン! 王女の周囲の力の流れを遮断するんだ!」
 感心するような言葉にウォルスは低くこう言い返し、セイランに指示を出す。
セイランは御意、と応じて足場の方へ移動し、紫の光を放って虹色の光を遮っ
た。これに、ガレスは特に慌てるでなくただ、にやり、と意地の悪い笑みを浮
かべる。
「なるほどな……どうやら君は、中々の逸材であるらしい……伊達に、私の血
は引いていない、と言う事か……くくくっ……」
「……黙れっ……」
「……え?」
 嘲るような言葉にウォルスの表情が厳しさを増し、そして、ニーナが息を飲
む。アクアブルーの瞳には、はっきりそれとわかる困惑が浮かんでいた。
「……ニーナさん?」
 その困惑に気づいたランディがそっと声をかけると、ニーナははっと我に返
ったようにランディを振り返った。
「あ、あの……何か?」
 それから、取ってつけたようにこんな問いを投げかけてくる。ランディは逆
に面食らうものの、すぐにいつものペースを取り戻す。
「ニーナさん、援護、お願いしますね」
「え……あ、は、はい」
 にっこり微笑っての言葉に対するニーナの返事は、妙に歯切れが悪かった。
しかし、その意味を確かめる暇はなく、ランディはガレスとの距離を詰める。
チェスターも弓に矢をつがえ、攻撃の隙を計り始めた。しかし、ニーナにはど
ことなく、行動を起こす事にためらいがあるように見えた。
「はああああああっ!」
 気合を込めて振り下ろした剣は、僅かな差で魔導師を捉え損ねて空を切った。
ランディは強引に態勢を立て直して更に切りかかるが、突然動きの俊敏になっ
たガレスを上手く剣に捉えられない。恐らくは魔法で動きを早めているのだろ
うが、正直これでは埒が開かない。チェスターの矢もウォルスのカードも、全
てぎりぎりでかわされていた。
(なん……何だ? この、感じ……)
 そしてランディは剣を繰り出しつつ、戸惑いを感じていた。ちりちりと焼け
つくようなアメジストの感触もさる事ながら、意識に何か、訴えかける存在が
あるように思えるのだ。
(……何なんだ? まるで……何か、泣いてるみたいな声……)
 意識に訴えかける声──それは、泣き声だった。複数の人間の泣き声が入り
乱れ、意識に何かを訴えかけているようなのだ。しかしその声はあまりにもか
細く、はっきりとは捉えられない。
(何なんだ……ぼくに、何が言いたいんだ? はっきりしてくれ、こんな時に
っ!)
 苛立ちと共に繰り出した一撃は、誰の目にも力を入れ過ぎた空振りと見えた。
実際、ガレスは鼻で笑ってその一撃をかわし、勢い余ったランディは大きく態
勢を崩してしまう。
「やばっ……」
「ランディ、危ない!」
 チェスターの叫びが聞こえるが、言われなくてもそれはわかっている。ラン
ディはとっさに片手を突き、そこを起点に回転して強引に態勢を立て直した。
しかし、直ぐさま立ち上がるには至らない。そこにすさかずガレスが魔力弾を
撃ち込んでくる。防御する間もなくランディは魔力弾に吹き飛ばされ、壁に叩
きつけられた。激突する直前に剣を放し、頭を庇いはするものの、激しい衝撃
が全身を揺さぶるのは避けられない。衝撃に一瞬、息が詰まった。
「ランディっ!」
「だ……大丈夫……まだっ!」
 名を呼ぶチェスターに答えつつ、ランディは軽く咳き込んで口元を拭う。
「いつつ……やっぱり、兜は被んなきゃダメだよね、ほんと……頭、守りきれ
ないよ……」
 それから、ふとこんな愚痴をこぼしてしまう。今回はたまたま当たり所が良
かったが、下手をすれば後頭部を壁に直撃して気絶していた所なのだから、無
理もないが。
「……ランディ、動けっ!」
 不意に、ウォルスがこう怒鳴るのが聞こえた。突然の事にえ? と言いつつ
顔を上げたランディは、
「……わっ!?」
 目の前に迫る無数の光の矢に息を飲んだ。動いて避けようにも身体の痛みが
それを阻む──それ以前に、回避でどうこうと言う距離では既に無かった。ラ
ンディはとっさに頭を抱えて身体を丸め、急所への直撃を避けようと試みる。
「……ランディっ!!」
 チェスターの絶叫が微かに耳に届き──直後に、激しい衝撃が腕や足を貫い
た。

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