01

 紡いではならない言葉。
 踏み込んではならない領域。

 それは常に、心の中に止めおいて。

 求める事はせず、求められても、ただ、拒む。

 孤独であること。
 それが自らの属する領域――『無限』の律であるが故に。
 
 ……それとわかっていて、何故。
 律に背いたのかと。

 問うたとて答えは出せない。

 そんな遠い刻の夢に、しばし。
 まどろんで。


「って、危ないから、あーぶーなーいーかーらっ!」

 ああ、まったく、なんだってこう。

「だーいじょうぶ、慣れてるからっ!」

 人という存在は、とても脆くて壊れやすいのに。

「慣れてるとか慣れてないの問題じゃないでしょうが! その枝、そんなに丈
夫じゃ……」

 平気な顔をして、無茶をして。

「平気だもん! ……もう、少し……」

 ……自身を危険にさらせるんだ?

「……っ!」

 響きわたる、みしり、という音。

「……ふぇ?」
「リアナ!」

 枝の折れる音。
 宙に舞う、小柄な身体。

 無意識の内に走り出していた。
 受けとめるために。

 ……無茶というか、とにかく無謀な人の少女を。
 無事受けとめて、最初に感じたのは――何故か、安堵。   
 
「……ったく……」
「あは、ごめんねー?」
「……笑いながら言われても、信憑性に欠けるんですが?」
 呆れたように言い放てば、返ってくるのは、えー、という声。悪びれた様子
など全くないその表情に感じるのは、軽い頭痛。思わず額に手を当てて溜め息
をつくと、リアナは少しだけむっとしたようだった。
「……疑ってるー! ちゃんと、反省してるのにー!」
「それのどこが、反省している態度なのですかと……」
「反省してるもんっ!」
「……はいはい、反省は、次から行動で示しましょう?」
 更にむくれるリアナの様子にやれやれ、と息を吐くとオトフリートはぽむ、
と少女の頭に手を置いた。
「わかってるわよっ! すぐにそうやって、子供扱い〜!」
 頭を撫でられたリアナが不満げな声を上げるのを、オトフリートは実際子供
だし、と受け流す。
 実際の所、彼からすれば大抵の存在は「子供」のようなものだった。
 虚より生じた、虚竜の眷属。時空の竜。
 いつから存在しているかも定かではない彼にとっては、自らよりも永く存在
している者というのはごく限られるのだ。
 もっとも、そんな事情はこの少女の知る所ではなく、リアナの視点では旅の
自称・歴史研究家の青年に不等に子供扱いをされている……と感じるのもまた、
やむなしと言えるのやも知れないが。  
 「……ところで、リアナ?」
 一頻りくすくすと笑うと、オトフリートはふと思い出したように少女に声を
かけた。リアナはまだどこかすねたような面持ちのまま、何よ? と問い返し
てくる。
「いや、大した事ではないのですが」
「……?」
「あんな危険な場所で、一体何をしていたのかなぁ、と」
 にこにこと。そりゃもうにこにこと微笑みながら投げた問いに、リアナは言
葉に詰まったようだった。
「リアナ?」
「えっ……と」
 相変わらずにこにことしたまま名を呼ぶと、リアナは何やら口ごもりながら
視線をそらす。オトフリートは笑みを絶やすことなく、その返事を待った。
 沈黙が流れ──やがて。
「……お……教えてなんか、あげないっ!」
 オトフリートは意地悪だから、と。そう、叫ぶように言い放つや、少女は跳
ねるように立ち上がる。そのまま、数歩、駆け出してからぴたり、足を止め。
「……明日も……」
「はい?」
「……なんでもないっ!」
 振り返りつつ投げかけた言葉を完結させる事なく、リアナはそのまま走り去
る。
「やれやれ……元気のいい事で」
 その背を見送りつつ、オトフリートは苦笑めいた笑みと共にこんな呟きをも
らしていた。


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