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   夢菊


〔プロローグ〕
 ハローワークの帰り、俺は見知らぬ老婆(?)に声をかけられた。
「お前さん、ちょっと占っていかんかい?」
 どうやら占いをやっている老婆のようだった。
「ああ・・・じゃあちょっとよろしく。」
 俺としてはすごく珍しいと思いながら、椅子に座る。
「千円じゃ。」
「はいよ。」
「えっとのぉ・・・お前さん、今何の職業に就くか、迷ってるじゃろ?」
「えっ・・」
 占いってそんなこともわかるのか。
「でも大丈夫。あと一週間も立たぬうちに、お前さんはちゃんと職にありつけ
るだろうよ。」
 そう言った老婆の瞳は煌々と輝いていた。
 俺は少しみとれてしまいそうになっ・・・
「はいここまでで千円。」
「高えっ!!!ありえんぞおい!!」
「占いってのはこんなもんじゃよ。まだ先聞きたいかい?」
「・・・もういいわ。帰るっ!!」
 とりあえず微妙な剣幕で店を後にしようとした俺は、またもや老婆に呼び止
められた。
「あっ、あんたに渡したい物があるのじゃ・・・」
「何だ。」
 老婆が取り出したのは、一輪の菊。
「もしかしたら、これがあんたの運命を決めるかもしれん。」
「??・・・ありがとう。」
 俺は少し首をかしげながら、店を後にした。
「・・・ちょっとお客さん、財布!!」
「ああっ!!!」


 とりあえず、もらった菊も家に飾った。
 飯(カップ麺だが)も食ったし、そろそろ寝ようかな・・・。
 と俺はソファーでうとうとしていた。
 すると何だか微妙な匂いがしてきた。
 そして俺は誰かに揺り起こされた。
「小菊ちゃん。起きてぇ♪」
 眠い目をこすりつつ俺は振り向いた。
「えっ・・・誰?!」
 そこにいたのは、・・・おかま・・・?!
「小菊ちゃん、もうすぐ開店時間よ☆」
「えっ・・・ていうか・・・」
 そのおかまは、「サー始めるわよー」とかなんとかいいつつ、向こうに去っ
ていった。
「ったく・・・意味わかんねぇよ・・・。」
 とりあえず部屋の外に出る。
 そこはピンク色の証明がかかっていて、(もちろん見慣れた俺のうちの風景
ではなくて、)何だか不 思議な感じのするところだった。
 どうやらおかまバーのようである。
 ・・・今気づいたのだが、なんと俺は、紫のチャイナ服を着ている(!!)。
 嗚呼、すね毛そっとけばよかったよ・・・。
「開店よ〜♪」
 店に客が入ってきた。結構人気のある店らしく、仕事帰りらしいサラリーマ
ンや、OL達もいる。
「小菊ちゃ〜〜ん♪お久しぶり!」
 俺はいきなり女の人に突き飛ばされた。
「・・・うわっ?!」
「あ〜ごめ〜ん、小菊ちゃん。」
 どうやら俺の名前は『小菊』らしい・・・。
 ちょっと待った。俺はこんなところで働いてなんかいないぞ!!
「ほら小菊ちゃん、そんなところでボーっとしてないで、働きなさい★」
 さっき俺を起こした店長(ママ・・・?)と思われるおかまが、再度俺を突
き飛ばす。
「ちょ・・・ちょっと待てよ!!」
「何?アタシ忙しいから、早くしてね。」
「俺はこんなとこで働いてる記憶はないぞ!!」
「何いってんのよ。アンタはこの店で4年も働いてるじゃないのよぉ。」
「・・・ていうか俺はおかまじゃねぇ!!」
「どうしたの小菊ちゃん?気分悪いの?・・・わかったわ、今日は休みなさい。」
「は・・・はぁ。」
「じゃあ明日ね。明日ちゃんと来るのよ。」
 俺は店長の言葉に甘えてかえろうとした。
「ちょっとぉ、小菊ちゃ〜〜ん♪」
 明らかに酔っているサラリーマンが、俺を呼び止める。
「なんか一曲唄って〜〜。」
 な・・・何で俺が唄わなきゃならねぇんだ!!
 しかし、客商売・・・一曲唄ってかえろう。

 結局5曲ぐらい唄わされた気がする。


 俺は目が覚めた。
「夢か・・・。」
 昨夜の微妙な匂いは、まだ部屋の中に残っていた。

「おかまバーの面接行こうかな・・・。」


〔エピローグ〕
「朝のニュースです。この頃、夢菊という菊が一輪1000円程度で売られて
いるそうです。眠っているときにその香りをかぐと、摩訶不思議な夢を見られ
るという菊です。
 では、次のニュースです・・・」


 『へもぐろ便』にて1100ヒットを踏ませていただいた際のキリリク作品。 お題は『菊』でお願いしました。  なんというか……こういう菊っていいかも。  なんて思った時給700円のフリーター……ふっ(遠い目)。
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