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   五里霧中(作品とタイトルは全く関係ございません。)ぇ


 武史はいきなり目がさめた。
 あれ―、今なんの夢見てたんだっけ。なんか面白い夢だったけどな。
 ちょっと残念そうに首を振った。
 うーん、やっぱり七月の朝は暑い。

 武史はこの春、高校に入ったばかりの一年生だ。
「うわっ」
 武史は家を出た瞬間声を上げた。
「なにこれ。霧?七月に???」
 あたりには真っ白な霧が立ち込めていた。
 武史は自転車にまたがった。
 すっげぇな、今日の天気は冬みたいだ、とか思いながら、学校へと急ぐ。
 しかし、進めど進めど霧は晴れない。むしろ濃くなってきた。
 周りが見えなくなったら危険だが、武史は気にせず自転車を飛ばした。

 霧がどんどん濃くなってくる。
 もう「霧」というか…まるで牛乳のようだ。
 武史はまだ自転車を飛ばしている。
「何なんだよこの霧は…」
 いきなり坂が始まった。
 自転車のスピードが上がる。
 こりゃ車と当たるかもな…と武史は思った。
 だって車さえ見えなくなっていたから…
 でもなんとか坂を抜けた。
 霧もだんだん晴れてきたらしく、うっすらと周りの家々が見え始めた。
「やっと晴れてくれたよ。危ない危ない。」
 武史はこれで安心して学校へ行けると思った。
 ある事に気付かないで…

 武史は学校についた。
 8時15分。遅刻ぎりぎりだ。
 武史は遅刻常習犯だったのでそんなに気にしていなかったが。
 …そういえば今日は遅刻はいないのか。
 誰も門から入ってくる生徒がいないので、武史はちょっと不思議に思った。

 おかしいな?
 人の気配が全然しない。
 どの教室も水を打ったように静かだ。
 と言うか人がいない…?
 生徒も教師もいない。
 みんなで修学旅行にでも行っちゃったのか?
 今日変だよ。あの霧といい、学校に人がいない事と言い…
 休みだったっけ?今日。
 とりあえずそこら辺のコンビニで時間つぶすか。
 また家帰るのもちょっと癪だし。
 武史はコンビニに入った。
 商品はちゃんと置いてある。クーラーもがんがんきいている。なのに…人だ
けがいない。
「何だよ、気持ち悪いな…」
 武史は嫌な気分になってコンビニから出た。

 誰もいない。
 道にも車一台通ってないし、家にも、学校にも、店にも、人っ子一人いない。
 もしかして、いまこの世界にいるのは自分だけ…?
 いや、家に帰ったら親がいるはずだ。今日あったんだから。
 武史はどうしても家に帰らなければいけない気がして、また家へと自転車を
飛ばした。

 見慣れた家に着いた。
 ドアをあける。
「ただいま」
 返答は無かった。
 武史は半狂乱になって人を探した。しかしどこにもいなかった。
 どうなってるんだよ…
 武史は無意味に自転車にまたがって、のろのろとこぎ出す。
 そのとき、武史は道の向こう側に人影を発見した。
 なんだ。やっぱり人いるんじゃん。
 武史は車のいない四車線を悠々と通過した。

「おい・・・何でこんなとこにいるんだ?」
 いきなり人影が聞いてきた。
「・・・?」
「お前、何でこんなとこにいるんだって聞いてんだ。」
「は?此処は俺の町だからだけど・・・」
「で、お前人間?」
「ああ。…お前は何なんだ?」
「彼」は何も言わないで、ため息をついた。
「迷って来たのか…しゃあない。俺が連れてってやる。」
 二人は歩き出した。というか、「彼」に武史がついて行っている、そんな感
じだったが。

 しばらく歩くと、野原に着いた。
「ちゃんとついてこいよ。」
 「彼」がいう。
「わーってるよ。」
 武史が頷く。
 いきなり目の前に川が現れた。
「はい、この川から向こうがお前が行くべき所だ。」
 「彼」がいった。
 「彼」は武史の手首を握って、ぐいぐいと引っ張り始めた。
「うわっ、何すんだよ…逃げないってば。」
「結構ここで逃げる奴多いんだよ…」
 武史ははっと気付いて立ち止まった。
「ア…ッ、ここって、まさか…」
「何。三途の川…ってお前らんとこでは呼ばれてるっけ。確か学校でそう習っ
た。」
 武史はいきなり「彼」の手を振り解いた。そしてもと来た側に向かって走っ
た。
「…おい、逃げるなよっ。」
 「彼」は武史につかみかかってきた。
 二人でもみくちゃになっての大喧嘩が始まった。(しかも川の中。ひでー)
「逃げるなよぉっ」
「俺は死にたくないんだッ!」
 武史は「彼」を殴ろうとして、こぶしを上げた。
 そのとき、「彼」と目があった。

 ……えっ…こいつ…俺じゃん。

 武史はいきなり目を覚ました。
 周りで家族達が心配そうに見守っていた。
「武史…」
 母が口を開く。
「母さん・・・。」


 『へもぐろ便』にて555ヒットを踏ませていただいた際のキリリク作品。 お題は『霧』でお願いしました。  ……ちょうど暑い時期にいただき、涼しくなりました。
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