時計の針の止まる時

 理由なんてわかりはしない。
 切欠なんてあって無きが如し。

 ただ、わかるのは。
 それは今までと違うものであった、と。

 ……ただ、それだけ。

 求める事に意味などなかった。
 手にすれば、壊れるだけ、壊すだけ。
 死を誘うは、己が性。
 自らを生かすがために、他者の生命を掠め取る。

 それが、本質と。
 わかっていたから。
 求めるつもりなどはなく。

 ……だけど。

 生きてほしいと、願われたのは。
 幼いあの時以来の事で。
 ただ、それには応えられぬと。
 予期もしていたから。
 何も、言わず。

 堕ちた後。
 消え去ろうと。
 でも。
 それは、できなくて。

 選び取ったのは、眠り。
 自らの『力』にて創りし『半身』、それを仮の宿りとして。
 ……刻が、来るまで……。

 ─ ☆ ─

 ……かちり、と。
 音を立てて、銀時計が止まった。
 その『持ち主』の生命が途切れるその時を、待ち構えていたかのように。
 そして、それは、目覚めの刻。
 時計の内にて眠りしものの。

「……ああ」

 こぼれ落ちた声は、生ける何者にも届かず。

「……時間……か」

 ふるり、それは身を振るわせる。
 時計の中で、まどろんで。
 待っていた刻の訪れ。

 ……待っていた所で、どうなるかなど、わかりはしなかったのに。
 ……求めた者は、変質したやもしれぬのに。
 ……そんな思いを掠めさせるも、しかし。

「決めたこと、ですからねぇ」

 零れ落ちる、呟き。応えるものは、当然ないが。
 ふるり、また、身を振るわせる。
 銀時計から、外へ。
 どれほどの刻が流れたかも、知らぬけれど。

 ……否、どれほどの刻が流れたかなど。
 彼にとっては、意味なき事。

 ……ばさり、と。
 音を立て、閃くは漆黒。
 漆黒と、紅と共に、堕ちたその日の姿のままに。
 それは、虚空に揺らめいて。

 碧がゆるりと、虚空を見回す。
 求めるもの、求めたもの、その姿を探すように。

 目覚めの後、再びその姿を見つけたなら。
 その時は、手を離すまい。
 見つけられぬなら、虚空に消える。
 それが、決め事。
 時計の内に、眠りし際の。

「さて……どうなるかな?」

 再び、呟きがこぼれ。
 彼はその場で、静かに浮かぶ。
 時の流れの感じられぬ、静謐の虚空。
 その静けさは、安らぎであり、また苦痛でもあり。

 穏やかさと苦しさの狭間を。
 どれほどの時間、漂ったのか。

「……ん?」

 不意に、静寂が、揺らいだ気がして。
 碧の瞳が、ゆるりと周囲を見回した。

「……今のは……」

 呼びかけだろうか、自分への。だが、そうと言い切れるほど、はっきりとは
聞こえなくて。
 不確かさは、不安となる。

「……キミ、かな?」

 小さく呟いて、それから。
 その名を小さく、唇に載せ。

 ……それに、応えるように。また、聞こえた声。

「……いるんだ、ね」

 呟く声は、戸惑いと、それから、喜びを帯びていたか。
 漆黒がばさり、羽ばたいて。
 目指すは、声の聞こえし先か。
 虚空に漂う、栗色の髪の元へ。

「……や。お久しぶり?」

 見つけた姿に、そう、と、呼びかける。
 声に気づいた栗色の髪の少女が、こちらを振り返る。
 向けられる笑み、それに、微かに苦笑めいたものを過ぎらせつつ──


 伸ばした手と手が重なり。
 そして、今度こそ。
 銀時計は完全に動きを止めて、無へと帰した。

 新たな螺旋へと続く、門を開くがために。 



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