闇の色彩、紅の音

 閃いたのは、あかいいろ。
 夜の闇の中。
 それはもの凄く鮮烈で……。

 こえが、でない。

 いや、でないんじゃなくて。
「だすな」
 そう、言われたから。

 絶対に声を出さず、隠れていなさいと。
 父さんと母さんがそう言ったから。
 だから、そうしなければと。
 そう……思って……。

 閃く、あか。
 響く、おと。

 それが何を意味するのか。
 わかりたくないけど、わかっていた。

 何も見たくない、何も聞きたくない。
 思っても。
 目は閉じられない、耳も塞げない。

 その内に、あかとおとは消え、そして。

『まだ、いるはずだ』
『アルは泣き虫だからねぇ、一緒にしてあげないと』

 耳に届いたのは、そんな声。

 一緒……一緒?

 それは、何を意味して……?

 ぼんやり考えていると、それまで遠かった気配がゆっくりと近づいてきた。

 逃げなきゃ。
 そう思ったけど。
 ああ、でも、隠れていなさいと言われたんだっけ、と。
 意識のどこかに、こんな思いが引っかかって動けなくて……。
 
『……この辺りから、匂いがする』

 隠れている場所の近くで、こんな声がした。

 いけない。
 でも、動いたら見つかる。
 いや、動かなくても、見つかる……?

 どうすれば。
 どうすればいいの?

 そんな、混乱した思いを切り裂くように。
 銀色の光が、闇に、閃いた……。


 ……にぃ……。


 闇を裂いた銀の光と、か細い鳴き声。
 それが、唐突に現実へと意識を引き戻して。

 ぼくは、過去の夢から目を覚ます。

「ん……ああ……にぃ君」

 目を開ければ、心配そうにこっちを見つめる、黒い猫。

「平気……大丈夫だよ、にぃ君」

 ちょっと、疲れただけだから、と呟いて。
 相棒の頭を軽く、撫でてやる。

 そう……へたばってなんか、いられないんだから。

 こう、心の奥で呟いて、ぼくは起き上がり、身支度を整える。

「……」

 窓の向こう。広がる風景。その穏やかさに、ふと目を細め。

「大丈夫……きっと……」

 かすれた声で、呟いた。
 それは願い。あるいは……祈り。

 同じ悪夢が、繰り返されないでほしいと願う。
 あの痛みが、広がらない事を祈る。

 ……力なきぼくには、それしかできず。
 それを形に変えるために、色々と考えるだけなのだから。

「……さ、行こうかにぃ君。まずは、朝ご飯だね〜」

 目を閉じて一つ息を吐き、開いた時には、いつもの表情。
 そんな決まり事を実行しつつ、ぼくは相棒に笑いかけ……相棒は、少しだけ
明るい様子で、にぃ、と鳴いて、ぼくの肩へと飛び乗ってきた。

 いつもと変わらない、朝。
 ……これは、いつまで続くんだろうか?

 ふと、そんなことを考えつつ、ぼくは、ゆっくりと歩き出した。



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