唯一なるが故……に?

 数多の世界に唯一なるモノ。
 そんな存在故に、頼まれても困る、と言う事は多々ある。

 具体的に、どんなものがあるか、と言うと。

「……とーきーりゅーう!」

 とてとてたたた。
 そんな感じの足音を引き連れた呼び掛けに、ふとそちらをみやる。駆けてく
るのは、陽射しを弾く金色の髪の少年。その姿に眺めていた本をぱたむ、と閉
じた。
「どうした、セレス?」
 傍らにちょこなん、と座る幼き機鋼の竜に問う。セレスはあのねあのね、と
言いつつしばらく息を整え、それから。
「ボクもえと、きょうだい? 弟か、妹、ほしい!」
 かなり、唐突な一言を投げてきた。

「……………………はい?」

 瞬間、思考停止。

「だからあ、きょうだいー」
 とぼけた声を上げたまま思わず固まっていると、セレスは一本に束ねた黒橡
の髪を引きつつ更に言葉を重ねてきた。
「って、こらこら、髪を引っ張らない! ……っていうか、一体何なんですか、
唐突な」
 髪を引かれる衝撃に我に返り、これ以上引かれぬように手を放させながら問
う。セレスはむぅ、とむくれつつ、だからね、と話し始め。

「……あんにゃろ」

 状況を把握するなり、こんな言葉が口をついた。
 自身も目をかけ、可愛がっている火炎の若竜がこの幼き機鋼竜を慈しんでい
るのは、知ってはいた。
 そも、総合的な個体数の少ない竜族では、新たに生まれた仔は属性や一族を
超えて慈しまれる傾向が強い。
 そして最近は少子化傾向にあるためか、セレスは彼の若竜にとってはある意
味希少な、自分よりも年下の同族──な訳で。ついつい、兄貴のような気分で
構う事も多いだろうとは思っていたのだが。
 それに感化されたセレスが、自分も弟妹に相当する存在を欲しがる、という
のは、予測がつかなかったというかなんというか。
(まあ、確かに近い内に眷属は増えるだろうが……それは弟妹というよりは、
未来の伴侶だしな……)
 ふと、過ぎるのはこんな考え。
 機竜王は、自身の眷属に『種として増える』事を求めていた。『創造』を領
域とする『機鋼』のものとして。
 それ故、幼き機鋼の竜は機械生命体とでも称すべき存在としての自己を確立
しており。各方面が落ち着いたなら、つがいとなるべき眷属が新たに生み出さ
れる事は、既に定められていた。
「……時空竜?」
 ふと、自分の考えに沈み込んでいると、セレスがこて、と首を傾げつつ声を
かけてきた。
「どしたの?」
「ん……どしたの、って?」
「ぼーっとしてる、よ?」
 不思議そうな問いかけ。それに、ああ、と苦笑して。
「いやいや、何でも」
 金色の髪を撫でてやりつつこう返すと、セレスはきょとり、と瞬き。それか
ら。
「それでー、ねー、時空竜ー」
「はいはい」
「弟か妹ー」
「いやその……それを、俺に言われてもなあ……」
「だって、だってー。時空竜に頼んでみたら、って、言われたしー」
「……俺にって。ったく、気楽に何を言いやがるのか……」
 ちたちたとするセレスの主張に、零れるのはため息混じりの言葉。セレスの
思考が無邪気である、とわかるだけに、どう答えればいいのか、と悩んでしま
う。
「……まあ、その、なんだ。
 そういうのは、俺よりも、火炎の若竜に頼みなさい」
「火炎の、若兄ちゃん、に?」
 どこか投げやりな一言は意外だったのか、セレスはきょとり、と瞬いた。
「うん、そう。若竜の方が、可能性はあるから」
 嘘は言っていない。多分。
 そも、無限存在である時空竜には『子孫を残す、血脈を残す』という事への
渇望がないに等しい。故に、弟妹的な存在──即ち、新たな竜族を生み出して
くれ、と頼まれても正直困る訳で。
 しかし、当たり前に血脈を残し、一族を増やしてゆく炎龍王の一族であれば
話は別。少なくとも、時空竜よりは芽がある──というか、ないと困る。色々
と。
「う〜ん……わかった、お願いしてみるー」
 そんな時空竜の心理を知ってか知らずか──恐らくは知らないが──セレス
はこくり、と頷くととたたた、と駆け出した。その独特とも言うべき『機鋼』
の気が遠のくと、自然、ため息が零れた。
「っとに、もう……そろいも揃って。無邪気なのも良し悪しだっての……」
 そのため息に続いた呟きに。
 やり取りを無言で見守っていた白梟が、ばさり、と一つ羽ばたいた。



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