Kleiner Vogel des Lichtes

 きらきらと、夜目にも鮮やかな光が、木陰に揺れている。
 それは、多分、本来の輝きに比べれば、格段に弱々しいものではあったろう
けれど。

「しかしまあ、聖なる鳥ってだけのことはあるよな」

 呟いて、ハーヴェイは、振り返る。

「で、泣かしていいの?」
 
その視線を受け、透き通った身体でふわりと宙に浮かんだ美しい女性は、こっ
くりと頷いた。

 彼女の返答に軽く肩をすくめ、とん、と地を蹴ると、ハーヴェイは狐の姿に
戻る。
 人の姿のまま、霊力を使うことは、まだ出来ない。
 父は、「力の意味」を見いだせば、いかなる状況でも力は使えると言うが、
何がその「意味」なのか、彼にはさっぱり理解出来ていなかった。

「それにしても、あんたも変わった人間だな」

 音を立てずに、庭を横切りながら、今は、先導するように前を行く女性の霊
体に声をかける。

「異種の小鳥が心配だからって、現世に留まるなんてさ。ふつ−の幽霊のやる
こっちゃねえぞ」

 彼女は答えず、ただふわりと微笑んだ気配だけが伝わってくる。
 儚げで優しい気配…この気配そのものが「殺された人間」の霊体としては、
格段に変わっていた。
 罪無く命を奪われた人間の魂というものは、普通もう少し、恨みや哀しみの
気配を纏っているものだ。
 ところが、彼女の抱えている心残りというのは、どうやら、目の前で心を閉
ざして震えている雛鳥の、行く末だけのようで…

「まあ、アーちゃんも心配してたし、いいんだけどよ」

 呟いた自分の言葉の方が、何だか言い訳じみていて、内心で苦笑した。

「ほんとに、泣かすからな?」

 目的の木の下に着くと、もう一度念押ししてから、ハーヴェイは、可能な限
りの数と色彩の狐火を上空に放った。
 頭上の枝の間でうずくまっている小鳥の魂が無意識に放つ輝きに、狐火の光
が戯れるように乱舞する。

『へえ、やっぱ綺麗だ…』

 素直に抱いてしまった感想は、恥ずかしいので口にしなかったが、

(綺麗ね、とても…)

 今まで殆ど声を出さなかった彼女が、まるで心を読み取ったかのように、う
っとりと呟いた。

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「う……ひくっ……わあああああああっ!」

 堰を切ったように、声を上げて泣き出した小鳥…ラッセルを見つめ、ぽふぽ
ふと尻尾でその頭を撫で続ける。

(これでいいのか?)

 と、視線を向けると、彼女は、今や、月の光を掠れさせるほどに輝きを増し
た光の小鳥のオーラに溶けるように消えていくところだった。

(ラッセルを、よろしくね。狐さん)

 なんだか最後に、とてつもなく、あっさりと心残りの続きを託されたような
気がするが、今更なので、気にするのはやめにした。
 どうせ、このまま放っておけはしないということは、既に自覚済みだったので。

 やがて、泣き疲れて眠ってしまった小鳥のそばに、寄り添うように寝そべって、

「ん〜、とりあえず、もう二〜三べんは泣かさないとな」

 今度は湖にでも突き落として脅かしてみようかな?などと、少々物騒な計画
を立てつつ、くわあ、と欠伸を漏らし、銀の狐は目を閉じる。

(そのうち…笑うかなあ…?)

 眠りに落ちる寸前に浮かんだ想いは、その夜の夢に溶けていった。 

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