村関連SS置き場/蒼天輪舞/─少し経った頃・神殿─ の変更点


[[蒼天輪舞]]
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執事エーヴァルト

[執事に対する裁定は、その主達よりも先に下された。彼がほとんど無傷で、取り調べにも素直に応じた事、主達とはほとんど別行動だった事などからのスピード裁定だった]

[結果的に、彼に下された処罰は三つ。
1.騎竜師エディ・ベルセリウス及び、神殿及び警備の人員への賠償金支払い。
2.破損した神殿の修復作業への勤労奉仕。
3.上記の賠償及び奉仕終了後、5年間の王都周辺地域への立ち入り禁止。
賠償金については、何故かラーベンタール家から肩代わりの申し出があり、即座に支払いが完了したため、現在、エーヴァルトの身は牢から移され、神殿預かりという形になっている]

[「もしも可能であれば、御帰国前に、一度お話したい」という旨のエーヴァルトからの伝言がカーク・ヒッツェシュライアーを名乗る嵐激の騎竜師に届けられたのは、彼が神殿に移されて間もなくのことだった]

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嵐激の騎竜師 カーク

[届けられた伝言に、最初に感じたのは戸惑い。
全く面識のない相手から、名指しで会いたい、と言われれば、普通に戸惑うもので]

……まあ、大体やる事は終わってるし。
構いやせんが。

[やる事──つまり、ナハティガル上層部との、非公式会見は概ね終わっている。
これは、大会の結果がどうであれ、行うつもりでいたから、動けば早かった。

中央各国からの東部沿海州への干渉、それがもたらす不穏な空気。
ナハティガルは、『英雄』である『聖剣』の持ち主が興した、ある種象徴的な王国ではあるが。
だからと言って、安穏とはしていられないのでは──という指摘。
ユウレンとしては、豊富な資源を『有効に』活用したい、故に、中央の安定と、ナハティガルとの友好関係を強く望む、と。
そんな内容を、茶飲み話に託けて、一見和やかに話していたとかいないとか。

いずれにしろ、後日、正式な会談を持つ前の根回しは大体終わっていた。

この辺りが、『守護者』の号を勝ち取れていればさくさくと進んだのにとかまあ、国からあれこれ突っ込まれていたのは、置いといて]

……っかし、なんだって、俺に……。

[一番の疑問はそこで、だからこそ、それを解消するために、神殿まで足を運んだ。
単純に、相手に興味がわいた──というのも、あるのだが。

訪れた神殿で神官長に挨拶をした後、案内の神官についてエーヴァルトの元を訪れ、そして]

まず間違いなく、初めまして、だと思うが。
一体全体、俺に何の御用ですかと。

[対面第一声は、常と変わらぬ軽い調子で。
瞳には、自分を呼び出した相手に対する好奇心がはっきりと浮かんでいた]

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執事エーヴァルト

お呼び立てして申し訳ありません。

[先方にとっては見知らぬ相手。だが、男にとって、彼は「見知らぬ」存在ではない。軽い調子の第一声に、蒼天を駆ける嵐竜を見上げたと同じように、眩し気に目を細め、恭しく一礼する]

こちらからお訪ねするのが筋とも思いましたが、私のような者が訪問しましては、ご迷惑かと思い、このような失礼を願い出ました。無理なお願いをお聞き届け頂いた事、感謝致します。

[罪人が、騎竜師を尋ねて行けば、人の噂にも立ちかねない。だが、騎竜師が「神殿」を訪れるだけならば、何の問題も無い筈だ、と呼び出しの意図をそう言外に伝えて。けれどそれだけでは解消される筈のない疑問への答えをまた別に口にする]

まずは、二つの事に、お詫びを申し上げねばなりません。
一つは、貴方様との決着を望んでおられたという紫雷の騎竜師殿を我が主が害した事。
今一つは、貴方様のパートナーたる精霊師殿をリヒャルト様の術により害した事。

どちらも、御二人の傍に有る私が、未然に気付いていれば防げた筈の事でした。心よりお詫び申し上げます。

[深々と頭を下げる執事の言葉は、型通りの詫び文句だが、少なくともその声音に偽りの色は無い]

#hr
嵐激の騎竜師 カーク

いや、いいさ。
そちらさんの事情を考えれば、そうそう出歩くって訳にも行くまい?

[向こうの事情は、ここに来る前に粗方聞いている。
だからこそ、一礼と共に向けられた言葉には軽く、こう返して]

…………。

[続く、謝罪。
心持ち、表情は引き締まる]

……まぁ、な。
紫雷のの件については、色々ともやもやしたものが残っちゃいるし。
エレオの事も……完全に吹っ切れてるか、って言われたら、素直にゃ頷けん。

けど、な。

あんたが傍で止めたとして、それで止まるほど、軽い気持ちでやってた訳じゃねぇだろ、あいつら。
ま、終わった事、で流せるモンじゃあないが……少なくとも、その事であんたが俺に謝る必要は、ねぇよ。

[それでも、言葉を綴る声は軽く。
一通り、話した所で目を細め]

……で?
よもや、その詫びいれのためだけに、わざわざ呼び出した……なんて事はないと思うんだが。

[緩く首を傾いで問いかける。
どことなく楽しげに見えたとしたら、それはきっと、錯覚じゃ、ない]

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執事エーヴァルト

いいえ、主が罪は、我が罪。自らに油断のあったことは私自身が知っていますので。本来ならば命を賭してでもお止めするべき事でした。

[事が起こる前に気付いていたなら、そうしたろう。それで彼らが止まらなかったとしても]

…とはいえ、これ以上は繰り言です。ただ、謝罪せねば私の気が済まなかっただけ、と、御聞き流し下さい。

[男はゆっくりと顔を上げる。目を細め、真意を問いかける風の寵児の表情を目にすると、僅かに目を伏せた]

お詫びが第一の目的であったことは、間違いありません。
けれどお許し頂けるなら、お尋ねしたいことがあります。

[男は、静かに背後のテーブルを差し示す。そこには艶やかな漆塗りの茶器と蓮餡の小月餅が用意されていた]

どうぞ、お掛け下さい。神官長様の御好意で厨房を御借りすることが出来ました。さすがに、小さなものしか用意できませんでしたが。

[相手がそれに応じれば、茉莉花の香りの茶を注ぎ、その向かいに自らも腰掛けると、暫し、その香りと茶菓を楽しむように勧める。再び口を開くのは、その後]

騎竜師として、貴方程、龍との絆を強く結ばれている方は、稀であるとお聞きしました。それ故にお尋ねしたいのです。
騎竜師との深い絆を断たれた竜は、他に生きる道を選べるものでしょうか?
例えば、他の騎竜師と再び絆を結ぶことは?

[感情を見せぬ薄氷の瞳が、ひた、と騎竜師の顔を見つめる]

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嵐激の騎竜師 カーク

……あー。
……昔、それと同じ事言ったヤツがいたなぁ……。

[ほんの一瞬、内乱平定後のあれこれに意識を飛ばす。
何を言っても結局聞かなかった、乳兄弟の父の事を刹那、思い。
それから、意識を目の前へと戻して]

……尋ねたいこと?

[怪訝な顔は一瞬、示されたテーブルの上の茶器と菓子に、お、と短く声を上げる]

……こっちに来て、国の菓子で茶に誘われるとは、思わんかったなぁ。

[ぽろり、と零れるのは本音。さして隠さぬ嬉しげな様子は、容易く読み取れる。
ともあれ、しばし、茶の香りと菓子を楽しんで。
切り出された『本題』に、表情を引き締めた]

そーだな。
新たにもたらされる絆が、断たれた物よりも強いか。
何かしらの要素が、断たれた痛みを和らげるなりなんなりしたなら……或いは。
新たな絆を結ぶ事も、できるかも知れん。

けど……な。

ひととひとの関わりが幾つもあるように、騎竜師と竜の関わりにも、色んな形がある。
だから、こればっかりは第三者がどうこう言って、それでどうにかなるものじゃ、ない。

新たな絆を求めるか、全てを拒絶し、命終えるか。
それは、その竜が決める事だ。

周りにできるのは……ただ、より良き途を、その竜が選べるように。
選択肢を、示すだけ。

[問われた理由は、察しがついた。
彼の氷竜の処遇。
それに絡んでの事なのだろう、と]

……まー、主が死んでるならともかく。
生きて引き離された、なんて場合は、回りに靡く、ってのはあんまりねぇから。

……野に放して、好きにさせるのが、一番いいだろうけどな。

[そして、それと察したから。
最後になんでもないよな口調で、こんな言葉を付け加えた]

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執事エーヴァルト

[茶器を譲り受けた東方の商人から聞いた、内乱を平定し新たに国の護り手として王の名を引き継いだ嵐龍の使い手と、目の前の騎竜師とが重なったとしても、男はそれについては何も言わず、表情にも出しはしなかった。
ただ、客人が茶菓を喜ぶ様子には、静かに微笑みを浮かべる]

お口に合いましたら光栄です。

[やがて問いに返る答えは、ある意味予測通りのもの]

そうですか…やはり、簡単にはいきませんね。

お察しとは思いますが、我が主の騎竜についての処遇は、まだ確定しておりません。
主は恐らく国外への追放となりましょうが…もし野に放たれれば、あの竜も後を追う恐れがあるとは誰しも考える事…それは許されないでしょう。

[誠実なる答えには、誠実をもって返す。虚も実も、自在に操ることの出来る男ではあったけれど、目の前の相手に、今更駆け引きの通じぬことは知っていた]

我が主が追放前に再び騎竜と会うことが適うかも危うい。もしも会えぬまま引き離され、空を駆ける事も許されぬとなれば、彼女は命を落とすかもしれません。
それは、避けたいのです。我が主のためにも、彼女のためにも。

[飽くまで静かに、そう言い継いで、男は席を降り、床に片膝をついた]

このような願いを口にするのは、罪有る身に過ぎた事とは思います。
しかし、貴方にお願いするしか、私に出来る事は無い。

どうか、彼の氷竜を竜の谷の、更なる奥地、辺境のジャングルに送るよう進言しては頂けないでしょうか?
その地には、我が主の弟なる方が眠られています。主たる者の大切な方の墓所を護ることになると知れば、彼女もそれに従いましょう。

[本当のルートヴィヒが、そこに眠っていることは、筆頭執事から聞いた秘密。それを明かし、助力を請う。ただの騎竜師であれば、そもそも聞く事が無理な願いだろう。けれど、彼ならば、と、口にはしなかった事実を頼みに、膝をついたまま深く頭を垂れた]

#hr
嵐激の騎竜師 カーク

ああ、そうだろうな。
傍で見てただけでも、あの氷竜との絆は深いのは読めた。
野に放てば追う──しかし、咎人と添わす事も、引き離した結果で竜を死なす事も。
ナハティガルとしちゃ、選べんだろうさ。

[騎竜師の興した国だからこそ。
竜を駆る者の罪には厳しい。
そして、竜という存在への慈しみが最も強いのも、この国。
それ故の葛藤の片鱗は、先の非公式会談でも伺えた]

……おいおい。
一介の騎竜師に、そんな無茶通す権限ある訳ねぇだろ……と、言いたいところだが。

[膝を突いての、訴え。
がじ、と軽く頭を掻き、それから、一つ息を吐く]

そちらさんは、色々と『わかった上で』、言ってるようだしな。
……相方を喪った竜の嘆きは、重い。
それを軽くするために、ってんなら……ま、やれる事はやるよ。

[思い返すのは、父を喪った風龍の嘆き唄。
己が半身の母龍は絆の先を喪い、その仇討ちが為された直後に風となって散り果てた。
それが命の廻りの習い──と、割り切ってはいるものの。
絆の先が死していないにもかかわらず、竜の嘆き唄を響かせるのは、快くはない]

ま、受けてくれるかどうかは、偉いさん次第。
そして……これは、俺の気まぐれからの行動だ。

だから、あんたがそこで床と仲良くしてる必要は、ねぇよ?

[軽い口調で、さらり、と告げる。
罪を負った者の頼みを聞きいれた、と取られては、こちらが今後不利になる。
だから、動くならば、こちらの独断である、と明らかにせねばならない。
そんな計算もあるが、何より。
こういう状況は──やはり、慣れない]

(こういう所が、甘いっつわれるんだよなぁ、メルには)

[ふと過った思考が滲ませた苦笑は、一瞬でとけて、消えた]

#hr
執事エーヴァルト

ありがとうございます。
心より、感謝致します。

[やれる事は、という、返答を受け、男の声に宿るのは、深い安堵の響き。続く言葉には、はい、と、素直に頷いて顔を上げ立ち上がった]

全ては風の気まぐれ、それで十分です。
どうぞ、この部屋を出られたら、私の名も、ここで話した言葉もお忘れになって下さい。

[本当ならば、言葉を交わすことさえなかったはずの相手。この邂逅は夢幻の類と大差無いのだからと告げて、微笑む]

不慮の事態の結果とはいえ、こうしてお会い出来た事を嬉しく思います。嵐激の騎竜師殿。
風と舞う貴方と嵐の龍の姿は、自由な心の象徴のように見えました。私は生涯、あの舞闘を忘れることはないでしょう。

[最後に付け加えたのは、執事としてではなく、人としての言葉だった]

#hr
嵐激の騎竜師 カーク

[告げられる感謝の言葉。
忘れてくれ、という話には、軽く、肩を竦めた]

……全部忘れるには、ちょっとばかり惜しいものもあるんだが、な。

[冗談めかした言葉と共に、視線が向くのは茶器の方。
ユウレン王は甘味にうるさい、とは。
一部の商人には有名な話だが、それは知られているのかどうか]

ん、ああ。
空にいる時の俺とフェイツウェは、何にも縛られていない。
だから……そー言ってもらえると、ま、ちょいとありがたい、かな。

[多くの束縛を望んで背負い、その一方で求めるもの。
それを示せるのが、空の舞だから。
告げられた言葉は、嬉しく思えた]

さて……それじゃ、俺はそろそろ行くわ。
帰る前に片すヤボ用も増えちまったし。

[どこまでも軽い口調で言って、席を立つ。
そのまま部屋を出ようとして──扉の前で、ふと立ち止まった]

気が向いたら。
東の方に、足を向けてみるのも、悪かぁないと思うぜ?
ま、しばらくは落ち着きないだろうが。

……風に護られし、黝簾石の門は。
流離い人を、拒みはしねぇから、さ。

[何でもないよな物言いで、さらり、紡ぎ。
振り返らずにひらり、手を振って]

……忘れるとこだった。
月餅美味かったよ、ごちそーさん。

[思い出したよな感想を最後に、風の寵児は扉の向こうへ姿を消した。**]

#hr
執事エーヴァルト

[冗談めかした言葉と共に、騎竜師の視線が茶器のあるテーブルに動いたのを見ると、男は笑みを深くする]

東方の菓子に挑戦するのは初めてでしたが、貴方にそう思って頂けたなら、成功と思って良さそうですね。

[龍と共に空に在れば、何にも縛られないとの言葉には、静かに頷いただけ。
暇乞いを告げられると、見送るために、扉を開け…かけて、さらりと放たれた物言いに目を見開いた]

………ありがとうございます。

[男が、この国に留まらぬだろうと見透かしながら、訪れを拒みはしないと告げるそれは、個の恩讐を超え、流離い人をただ人として受け入れる風の国の王の言葉。短い沈黙の後、男が返すことが出来たのは、言わずもがなの一言だけで]

どうか…貴方の上に永遠に風の祝福のあらんことを。

[やがて、男らしからぬ祈りの言葉が小さく紡がれたのは、扉の向こうに嵐激の騎竜師の姿が消えた後のことだった**]

(蛇足)

[神殿での茶話よりいくらかの後、差出人の名の記されぬ焼き菓子と滋養に良いと言われる薬草を配合した香草茶の包みが、神官長からの使いを通して、精霊師エレオノーレ宛に届けられた。贈り主を問われれば、使者はこう答えただろう]

『嵐激の騎竜師殿のファン、という人だそうですよ』**

#hr
精霊師 エレオノーレ

―医務室―

[目を覚ましてから暫くはまだ医務室暮らしで。届けられた焼き菓子と、香草茶の包みに瞬いた。
何方からと尋ねても、カークのファンから、という返事だけで、更に瞬く。]

誰から…あ、すみません、少し待ってて下さい。

[そう言って部屋に置いてあった鞄を探る。
何かお礼になるような物をと探して――カリギュラの宝石が真っ二つに割れているのを見つけてぴしりと固まった。
おそらくは医務室で騒いだ時の影響なのだろうが、ショックで耳がぺとりと垂れ下がる。
大丈夫かと、配達してくれた人に呼びかけられれば気を取り直し。]

だ、大丈夫、です。
ああ、そうだこれにしよう…。
もう少し待ってくださいね。

[そう言いメモに手早く文字を書いた。

『態々ありがとうございます。どちらとも後ほど頂かせていただきます。
お礼に竜から取れた宝石の欠片をお送りします。
どうぞ幸運の守りとなりますように。  エレオノーレ』

紙を折りたたむと、そこに砕けた宝石の小さな欠片をいくつか忍ばせて、
届けてくれた人に、送り返してくれるように頼んで渡した。

小さな欠片とはいえそこには宿るモノがある。
それを誰かが感じ取り、どう伝えるかは知る由も無い**]

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